TPPを活用して関税削減に必要となる原産地を証明する書類は
「原産品申告書」と呼びます。「原産地申告書」と呼ぶ場合もありま
すが定義は基本的に同じで、輸出者、製造者(生産者)、輸入者自身
にて作成する「自己証明」という形になります。
従来のFTA/EPAで使用した「原産地証明書」は商工会議所が作成する
証明書であり、TPPでは商工会議所が発行する「原産地証明書」は使用
できませんのでご注意ください。
目次
TPP原産品申告書フォーム
原産品申告書のフォーム例は税関様式一覧ページからダウンロードできます。
原産品申告書の記載内容で重要なポイントはTPP原産地規則協定文1502ページ
(付属書3-B必要的記載事項)にて規定されている内容となりますので
この記載事項を順に確認していきます。
TPP原産品申告書フォーム例
※TPP原産品申告書PDFダウンロード
WORD版ダウンロード
TPP原産品申告明細書フォーム例
※原産品申告明細書PDFダウンロード
WORD版ダウンロード
英語TPP原産品申告書フォーム例
※フォーム例は日豪EPAを参考
英文Word
英語版TPP原産品申告明細書フォーム例
※フォーム例は日豪EPAを参考
英文Word
必要的記載事項
1.証明者
輸出者、生産者、輸入者のうち原産地証明書を作成した者
2.証明者の明細
氏名または名称、住所(国名を含む)、電話番号、電子メールアドレス
3.輸出者(証明者ではない場合)
氏名または住所(国名を含む)、電話番号、電子メールアドレス。
生産者が原産地証明書を作成した場合で、輸出者が特定できない場合は不要。
輸出者の住所はTPP域内国の産品が輸出された場所とする。
4.生産者(証明者あるいは輸出者ではない場合)
氏名または名称、住所(国名を含む)、電話番号、電子メールアドレス。
生産者が複数いる場合は“various”と記載、あるいはリストを添付。
生産者を秘匿したい場合は、“Available upon request by the importing
authorities”(「輸入締約国の当局の要請があった場合には提供可能」)
と記載可能。生産者の住所はTPP域内国の産品が生産された場所とする。
5.輸入者(特定可能な場合)
氏名または名称、住所(国名を含む)、電話番号、電子メールアドレス。
輸入者の住所はTPP域内国でなければならない。
6.産品の品名及びHSコード
対象産品の品名及び関税分類(HSコード6桁)品名は対象産品を表すのに
充分な形で記載する必要がある(HS2012を使用)
また、1回限りの原産地証明書の場合、インボイス番号がわかっていれば記載。
7.原産性の基準
どの原産性の基準(以下のいずれか)を活用して原産品としたかを記述。
原産性の基準は以下の3つに分かれます。
(a) Wholly obtained or produced(完全生産品)(WO)
(b) Exclusively from originating materials(原産材料のみから生産される産品)(PE)
(c) PSR(品目別分類規則)を満たす産品(更に以下の3つの種類に分かれる)(PSR)
-①関税分類変更基準
-②付加価値基準
-③加工工程基準
上記(a)(b)(c)と(c)①、(c)②、(c)③の意味をそれぞれ確認していきます。
(a) Wholly obtained or produced(完全生産品)
「完全に得られ、又は生産される産品」とはひとつの特恵受益国において
完全に生産された物の事です。詳しくは完全生産品解説ページをご覧ください。
(b) Exclusively from originating materials
(原産材料のみから生産される産品)
完全生産品とニュアンスは似ていますが少しだけ違います。
日本の一次原料を使用して製造された貨物ではあるけれど、
二次原料以降の原料の元を辿っていくととTPP加盟国以外の国から調達した
原料がどこかに含まれている貨物が対象です。
二次原料(上記の例ではオリーブ)が非締約国から調達した物の場合は
原産材料のみから生産される産品に該当します。
詳しくは解説ページをご覧ください。
(c) PSR(品目別分類規則)を満たす産品
PSRとはProduct Specific Rulesの略で品目別分類規則の事を指します。
非原産材料を使用してTPP加盟国内で製造された貨物の場合、
品目別分類規則を満たした製造工程であれば原産性が認められ、
TPP加盟国原産貨物として関税削減の対象になります。
非常にわかりづらい部分かと思いますが、これはつまり
TPP加盟国以外の国から調達した一次原料を使用して製造された
貨物であってもTPP加盟国で完成された製品と見なされれば輸出先で
関税削減ができるという事です。
この基準というのが附属書3-Dに貨物のHSコードごとに記載されております。
この基準通りに貨物の製造がおこなわれていれば原産地規則を満たし「PSR」と
記入する事ができるようになります。
附属書3-Dは読みにくいので税関HPの品目別分類規則をお勧めします。
(c) のPSR(品目別分類規則)は以下の3種類に分かれます
①関税分類変更基準
②付加価値基準
③加工工程基準
①から③の意味をそれぞれ確認していきます。
①関税分類変更基準
「関税分類変更の基準」とは
TPP加盟国以外の国から調達した一次原料のHSコードと
TPP加盟国で完成した製品のHSコードが2,4,6桁レベルで変わる程度の
加工がされている場合に適用できる基準です。
詳しくは関税分類変更基準の類、項、号解説をご覧ください。
加工によるHSコード変更の程度については以下をご覧ください。
HSコードの桁数が2桁変更していれば基準をクリア(CC)
HSコードの桁数が4桁変更していれば基準をクリア(CTH)
HSコードの桁数が6桁変更していれば基準をクリア(CTSH)
TPPの品目別原産地規則で各HSコード別に上記3つの基準のうちいずれ
かが指定されている事がほとんどですので、指定された基準を満たす製
造工程であれば原産性を満たし非原産材料を使用していてもTPP締約国
にて製造された貨物とみなすことができます。
②付加価値基準
付加価値基準というのはTPP締約国で製造された貨物の価格と
非原産材料の価格の割合配分によって原産性を満たすかどうかを
判断する基準で附属書3-Dに品目別に計算方法が指定されています。
以下の例では非原産材料を使用してTPP加盟国内で自動車を完成させた
場合の例です。
上記の例は付加価値基準の内の「控除方式」という計算方法を使用
しています。(点線で囲んだ部分の計算式)
付加価値基準の計算方法はいくつか種類があり、どの計算方法が使用
できるかを品目別分類規則にそれぞれ指定してあります。
例えば上記の自動車の品目別分類規則(附属書3-D)を見てみると
以下のように記載されております。
自動車の場合の計算方法は「控除方式」以外にも「純費用方式」という
計算方法も使える事がわかります。
他の貨物の品目別分類規則を見てみると計算方法は以下の4つに分かれます。
①控除方式
②積み上げ方式
③重点価格方式
④純費用方式
それぞれの計算方法は以下に記載してあります。
③加工工程基準
「特定の生産工程の基準」とは品目ごとに定める工程を経て製造された貨物に
原産品としての資格を与える基準で、化学品や繊維製品に適用されます。
こちらも附属書3-Dに品目別に製造工程が指定されています。
自動車関連の品目別規則
自動車(完成車)及び自動車部品については、付加価値基準の計算において、
材料について原産地規則を緩和する特別ルールが規定されています。
(根拠条文(附属書三-D・付録1))
1.自動車(完成車)
○ TPP11における原産地規則は、付加価値基準(控除方式で55%又は
純費用方式で45%)。ただし、特定の自動車部品7品目(注1)については、
指定された工程(注2)のうち、1つ以上の工程をTPP11域内で行えば、
原産材料と認められる。
2. 自動車部品
○ TPP11における自動車部品の原産地規則は、関税分類変更基準と
付加価値基準(品目に応じ、控除方式で45~55%、積上げ方式で35~45%又は
純費用方式で35~45%)の選択制(※一部例外を除く)。
ただし、上記付加価値基準の計算上、当該自動車部品の材料は、
指定された工程(注2)のうち、1つ以上の工程をTPP11域内で行えば、
5~10%を限度として、原産材料と認められる。
(注1)強化ガラス、合わせガラス、車体(普通車用のもの)、
車体(貨物車等用のもの)、バンパー、車体用プレス部品及び扉組立、
駆動軸及び非駆動軸
(注2)複雑な組み立て、複雑な溶接、ダイカストその他これに類する
鋳込み成形、押出成形、鍛造、熱処理(ガラスの強化又は金属の焼戻しを含む)
積層、切削、金属成形、鋳造、スタンピング(プレス成形を含む)
(※)自動車用エンジン及び原動機付シャシについては、
関税分類変更基準が適用されず、付加価値基準のみとされている。
繊維製品の品目別規則
61類~63類の繊維製品の原産地規則は、①紡ぐ、②織る、③縫製、
という3つの工程を原則TPP11締約国内において行う必要があり、
これを「ヤーンフォワード・ルール」と呼びます。
但し、ヤーンフォワード・ルール(3工程)を前提としつつ、
「供給不足の物品の一覧表」(ショートサプライ・リスト(SSL)に
掲載された域内での供給が十分でない材料(繊維、糸、生地)については、
例外的に域外から調達しても、その最終用途の要件を満たせば
原産品と認められるという救済規定もあります。
61~63類も含めた繊維等の原産地規則は附属書4-Aに記載されております。
61類~63類の繊維製品が原産品であるか否かは、当該産品の
関税分類を決定する構成部分(原則として、表側の生地に占める面積が
最も大きい部分)について、適用される規則に定める関税分類番号の
変更を満たす必要がある。
デミニミス(僅少の非原産材料)については、
適用される関税分類番号の変更を満たさない非原産材料が関税分類を
決定する構成部分の全重量の10%以下の場合、原産品とみなす。
ただし、弾性糸が含まれるものはTPP11域内産の糸である必要がある。
<その他の要件>
【弾性生地ルール】
61類~62類の繊維製品に弾性糸を使った生地(HS60.02、5806.20)を
使用する場合、当該生地は域内産の糸を使用する。
【縫糸ルール】
61類~63類の繊維製品に縫糸(HS52.04、54.01、55.08の縫糸又は
HS54.02の糸を縫糸として使用)を使用する場合、当該縫糸は
域内産の糸を使用する。
【絹100%の着物・帯に関するルール】
着物又は帯に使用する絹100%の織物は、域内で製織、裁断・縫製する
必要がある(⇒着物・帯は2工程)。
※絹織物はSSLで域外調達が認められているため、
域内で裁断・縫製すれば、最終製品はTPP11原産品となる(⇒1工程)。
8.対象期間
→同一産品の複数回の輸送を対象とする場合、その期間。原則、12カ月が限度。
日豪EPA原産品申告書に期間の欄が無いので「その他特記事項」に追記する。
9.署名と日付
→証明者による署名と日付を明記。あわせて右記の宣誓文を記述。
累積
「累積」とは原産地規則を満たしやすくする為の規定です。
例えば日本がTPP加盟国であるベトナムから輸入する完成品Aがあり、
その完成品Aの原料Bはベトナムがニュージーランドから調達した物で
あった場合、ニュージーランドはTPP加盟国なのでその原料Bは
日本側から原産材料とみなされ、原産地規則を満たす事ができます。
日本から見て逆の立場の場合も同様です。
例えば日本産原料Cをベトナムに輸出し、ベトナムでの完成品Dを
ニュージーランドに輸出した場合も日本産原料CはTPP加盟国からの
調達という事でニュージーランド側から原産材料とみなされます。
つまりTPP加盟国全体から調達した原料であれば、最終製造工程を
行った国以外から調達した原料であっても原産材料とみなされるという
事になります。
(詳しくは累積解説ページをご覧ください。)
※累積の根拠条文TPP原産地規則協定文1462ページ
※Jetroセミナースライドより引用
デミニミス(僅少の非原産材料)
デミニミス(僅少の非原産材料)とは(附属書3-D)の品目別分類規則を
満たせない貨物に対する救済規定です。
非原産材料であってもその価格割合が貨物全体の価格から見て
僅かである場合はこれを原産材料と見なす規定です。
「原産地規則は満たせないがどうしても少しだけ非原産材料を使いたい」
という場合に有効です。
(詳しくは僅少の非原産材料解説ページをご覧ください。)
【デミニミスの基準】
○ 関税分類変更基準が適用される産品にのみ適用され、
原則として産品の価額の10%以下
○ ただし、繊維製品の場合、原則として当該産品の重量の10%以下
(根拠条文はTPP原産地規則協定文1505ページ)
また、僅少の非原産材料の規定を適用しない材料もありますので
この救済規定を使用する際は以下に該当する貨物でないかどうかを
確認する必要があります。
(a)第4類の非原産材料又は第1901.90号若しくは
第2106.90号の原産品でない酪農調製品(乳固形分の含有量が全重量の
10%を超えるものに限る。)であって、
第4類の産品(第0402.10号、第0402.21号、第0402.29号
及び第0406.30号(注)の産品を除く。)の生産において使用されるもの
(b) 第4類の非原産材料又は第1901.90号の原産品でない酪農調製品
(乳固形分の含有量が全重量の10%を超えるものに限る。)であって、
次のいずれかに掲げる産品の生産において使用されるもの
(1) 第1901.10号の育児食用の調製品
(乳固形分の含有量が全重量の10%を超えるものに限る。)
(2) 第1901.20号の混合物及び練り生地(乳脂肪の含有量が
全重量の25%を超えるものに限り、小売用にしたものを除く。)
(3) 第1901.90号又は第2106.90号の酪農調製品
(乳固形分の含有量が全重量の10%を超えるものに限る。)
(4) 第21.05項の産品、第2202.90号の飲料
(ミルクを含有するものに限る。)
(5) 第2309.90号の飼料
(乳固形分の含有量が全重量の10%を超えるものに限る。)
(c) 第08.05項又は第2009.11号から第2009.39号までの
各号の非原産材料であって、第2009.11号から第2009.39号
までの各号の産品の生産において使用されるもの又は
第2106.90号若しくは第2202.90号の単一の果実若しくは
野菜を使用したジュース(ミネラル又はビタミンを加えたものに限り、
濃縮したものかどうかを問わない。)に使用されるもの
(d) 第15類の非原産材料であって、
第15.07項、第15.08項、第15.12項又は第15.14項の
産品の生産において使用されるもの
(e) 第8類又は第20類の原産品でない桃、梨又はあんずであって、
第20.08項の産品の生産において使用されるもの
原産品申告書記載要領
上記の点を踏まえて以下のように記述する形になります。
※TPP11(CPTPP)及び日EU・EPA原産地規則について【実務編】より
宣誓文
宣誓文で文書の内容が真実ですと宣誓する必要があります。
TPP協定文にその宣誓文が指定されております。
※日本語訳文がちょっとおかしいのが気になります、、、
私は、この文書に記載する産品が原産品であ
り、及びこの文書に含まれる情報が真正かつ
正確であることを証明する。私は、そのような
陳述を立証することに責任を負い、並びにこの
証明書を裏付けるために必要な文書を保管し、
及び要請に応じて提示し、または確認のため
の訪問中に利用可能なものとすることに同意
する。
英語版宣誓文
I certify that the goods described in this
document qualify as originating and the
information contained in this document is true
and accurate. I assume responsibility for proving
such representations and agree to maintain and
present upon request or to make available
during a verification visit, documentation
necessary to support this certification.
保存書類
輸入者は輸入許可の日の翌日から5年間以下の書類を保存。
①当該輸入に関する文書。
(特恵待遇の要求の根拠となった原産品申告書を含む)
②特恵待遇の要求が当該輸入者が作成した原産品申告書に基づ
く場合には、当該産品が原産品であり、かつ、関税上の特恵待
遇を受ける資格を有することを示すために必要なすべての記録。
輸出者、生産者は作成の日から5年間当該輸出者又は生産者が提供した
原産品申告書に記載した産品が原産品であることを示すために
必要な全ての記録。
相手国から原産性の事後確認(検認)
FTA特恵関税を適用した貨物を輸出し、相手国側での関税削減を行った
場合、後日相手国から原産性の事後確認が行われる可能性があります。
これを検認(Verification)と呼びます。
TPPの場合の検認は相手国の税関から直接輸出者や生産者に対して
原産性の確認を行う事が可能ですので、税関や商工会議所からの
事後調査よりもハードルが高くなります。
質問は英語で来ますので事前にFTA/EPAで使われる英語も事前に
把握しておく必要があります。
TPP関税率
日本側関税率とカウント方法
TPPによって恩恵を得られる関税率は譲許表で確認します。
日本に輸入する場合の関税率は日本側譲許表にHSコード別に記載
されております。
協定上の1 年⽬、2 年⽬のカウント方法は
発効時から翌年(2019 年)3 ⽉ 31 ⽇までが「1 年⽬」、
2019 年 4 ⽉ 1 ⽇から 2020 年 3 ⽉31 ⽇までが「2 年⽬」、
その後の各年は毎年 4 ⽉ 1 ⽇に始まります。
輸出先(日本以外)の関税率とカウント方法
TPP加盟国への輸出で相手国での関税率を調べるには各国の
譲許表を確認する事になります。
-オーストラリア(Australia)
-ブルネイ(Brunei)
-カナダ(Canada)
-チリ(Chile)
-日本(Japan)
-マレーシア(Malaysia)
-メキシコ(Mexico)
-ニュージーランド(New Zealand)
-ペルー(Peru)
-シンガポール(Singapore)
-ベトナム(Vietnam)
⽇本以外の原締約国で2018 年 12 ⽉ 30 ⽇に発効する国(メキシコ、
シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア)の譲許表は
発効時から(2018 年)12 ⽉ 31 ⽇までが「1 年⽬」、
2019 年 1 ⽉ 1 ⽇から 12 ⽉ 31 ⽇までが「2 年⽬」、
その後の各年は毎年 1 ⽉ 1 ⽇に始まります。
2018 年 12 ⽉ 30 ⽇以降の協定の発効⽇の後、新たに発効する国についての
⽇本が適⽤する関税撤廃のスケジュールは
①新締約国の発効⽇を起点として適⽤する
②協定の発効⽇(2018 年 12 ⽉ 30 ⽇)に発効したものとして適⽤する(キャ
ッチアップする)のいずれかを、その都度、決定することとなります。
ベトナムについては、⽇本としては、キャッチアップを⾏う(②)と決定
しており、これにより、ベトナムも⽇本に対して、キャッチアップを⾏う
こととなります。
当記事は税関によるTPP原産地規則解説スライドからの引用で
作成しております。
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