HS分類の意見相違が発生すると迅速な貿易取引やEPAを適用
した関税削減の実現は困難になります。
関税削減.comではHS分類の意見相違を減少させて安全な貿易取引を行う為に必要
な情報を発信します。
| 関税削減.com運営:河副 太智 2009年から横浜税関管轄通関士として確認を受け、数万件の輸出入申告に関わり、 当初はHS分類の誤りを連発し、税関からの指導、ペナルティ、荷主様からのお叱りを ある時、世界各国の税関のHS分類事例を 現在も世界各国のHS分類訴訟事例、 |
HS分類が適切でないとどうなるのか
HSコードは関税率の確定、各種法令による規制、B/L等書類への記載など様々な分野
において利用される上、現代の貿易取引において重要なEPAを適用した関税削減を
実現する為にも非常に重要かつ便利な制度として多くの国に採用されています。
しかし、その複雑さゆえに様々な問題も含んでおります。特に顕著な問題として
国、文化、人によるHSコード分類法解釈の「意見相違」が挙げられます。
そもそもHS分類法解釈というものは絶対的なものではなく、輸入国税関の判断に
よって様々な解釈がある為、適用する関税率や各種法令による規制をめぐって
トラブルが起こる事もしばしばあります。
EPAを適用する関税削減においては最終製品のHSコードはもちろんのこと、原産地
規則を満たす為に関税分類変更基準(CTCルール)を適用する場合は全ての原材料、
部品に対しても正確なHS分類が必要になることから「意見相違」が発生した場合、
EPA特恵関税率の適用否認やペナルティの発生という問題が生じる場合があります。
例えばある品目がA国では材質をベースにしてHSコードが決まるのに対し、
B国ではある製品の部分品として解釈されたHSコードに分類されるというように
国によってHS分類先が異なるという現象は決して珍しいことではありません。
このようなHS分類の意見相違が発生する事により検認、事後確認等においてEPA
特恵関税関税率の適用が否認された場合、通常の関税率を適用した関税を支払う
事になるだけでなく、過少申告加算税や延滞税といったペナルティを受ける上、
取引先や各国税関からの信用失墜につながる恐れがあります。
実務上現実的でない「事前教示申請」
各種勉強会、セミナー等におけるHS分類に関わるアドバイスとして一般的なもの
として「輸入国税関への事前教示申請」があります。確かにこの方法であれば
HS分類の意見相違が発生する余地はほぼ無くなりますが、照会品目が多岐に渡る
場合は実務上現実的でない場合があります。
例えば第三国から調達した大量の原材料や部品から製造された完成品がEPA原産地
規則を満たすかどうかを確認する場合など、全ての品目に対し事前教示申請をする
というのは多大な労力と時間を要する事になってしまいます。
かといって事前教示申請をせず、自社にてHS分類を検討し附番を行う場合は常に
意見相違のリスクに立ち向かう必要があり、関税削減は実現できたとしても検認、
事後調査での対応が確実にできるよう入念な準備が必要となり、日々心穏やかに
過ごす事ができなくなってしまいます。
では事前教示申請でもなく、自社検討のHS分類でもない方法で極力意見相違を
発生させないHS分類方法はあるのでしょうか?
手段の一つに他者が申請した事前教示申請に対する回答事例を参照し、対象品目
に類似した品目のHS分類事例を参照するという方法です。この方法はHSタリフや
関税率表解説等による分類ができない品目に対する分類事例を検索する事が可能
であるため、類似貨物の分類事例が存在する場合は非常に有益な分類判断基準を
得る事が可能です。
但し、日本税関の場合、この事前教示回答事例は数が少なく(約15,000件前後)
対象品目と類似する品目を見つけられる可能性が低く、仮に事例が存在したと
しても回答日から3年が経過してしまうと検索結果から削除されてしまうため、
常にHS分類判断の助けになるとは言いにくいのが実態です。そこで海外の税関
によるHS分類事前教示回答事例を検討してみます。
世界の税関による「事前教示回答事例」
HS条約締約国においてHSコードの頭6桁を共通として運用されています。
その為、海外税関が公開するHS分類事前教示回答事例を翻訳さえできれば
世界各国の膨大なHS分類事前教示回答事例を活用して対象品目のHS分類を
素早く正確に分類する事が可能であると考えます。
そこで世界の様々な税関のHP等を辿りHS分類事前教示回答事例をネットで
調査できる国を調べた所、現時点で以下の35か国の税関による事例が調査
できるという事が判明しました。
アメリカ、カナダ、中国、日本、台湾、チリ、オーストラリア、オーストリア
ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア
フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド
イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランド
ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン
イギリス
日本税関によるHS分類事前教示回答事例は15,000件程度しかありませんが
上記35か国を対象にすると50万件以上の事例を調査する事ができます。
更に品目にもよりますが海外の税関では積極的に事前教示回答事例に対象品目の
実物画像を公開している事例も豊富にある為、視覚的に分類の助けになる情報を
活用する事ができます。
以下に海外の税関によるHS分類事前教示回答事例のいくつかを紹介します。
中国税関事前教示事例
登録番号:J2015-0008
品目:丸のこ刃
HSコード:8202.39
出典:中国税関
イタリア税関事前教示事例
登録番号:ITBTI2019-0302M-278100
品目:鉄鋼製の半製品
HSコード:7207.20
ドイツ税関事前教示事例
登録番号:DEBTI35618/19-1
品目:スクリーンホルダー
HSコード:9403.20
■世界各国の税関による自動車部品のHS分類事前教示回答事例100選
品名 | hs code | 画像 |
エアコン | 8415.20 | |
オルタネーター | 8511.50 | |
アンテナ | 8529.10 | |
クーラント | 3820.00 | |
バッテリー | 8507.10 | |
ベアリング | 8482.40 | |
ベアリングハウジング | 8483.20 | |
滑り軸受け | 8483.30 | |
ゴムベルト | 4010.35 | |
車体 | 8707.10 | |
ボルト | 7318.29 | |
ブレーキ材 | 6813.81 | |
ブッシング | 7326.90 8483.90 | |
電気ケーブル | 8544.30 | |
ケーブル | 7312.10 | |
コンデンサー | 8532.22 | |
カムシャフト | 8483.10 | |
床材 | 5703.20 | |
カーマット | 5702.42 | |
チェーン | 7315.11 | |
歯車 | 8483.40 | |
シャーシ(原動機付き) | 8706.00 | |
シガーライター | 9613.80 | |
ヒューズ | 8536.10 | |
鉄鋼製の管 | 7326.20 | |
ブレーキ材 | 6813.89 | |
コンプレッサー | 8414.80 | |
パネル、コンソール | 8537.10 | |
ステッカー | 4911.99 4908.90 | |
曇り止め | 8512.40 | |
始動発電機 | 8511.40 | |
ディーゼルエンジン | 8408.20 | |
ガソリンエンジン | 8407.34 | |
エンジン部品 | 8409.91 | |
ファン | 8414.59 | |
フィルター | 8421.23 | |
卑金属製取付具 | 8302.30 | |
プラスチック製取付具 | 3926.30 | |
鉄鋼製継手 | 7307.23 | |
卑金属製管 | 8307.10 | |
ゴム製フロアマット | 4016.91 | |
プーリー | 8483.50 | |
インジェクター,燃料噴射装置 | 8409.99 8481.80 | |
ピストンエンジン用ポンプ | 8413.30 | |
ヒューズ | 8536.10 | |
ギア | 8483.40 | |
ゲージ | 9026.20 | |
ジェネレーター | 8511.40 | |
車体用の取付具 | 3926.30 | |
ゴム製の部分品、付属品 | 4016.99 | |
ワイヤーハーネス | 8544.30 | |
ヒーター | 8415.20 8516.29 | |
ホーン | 8512.30 | |
ゴム製ホース | 4009.12 | |
シリンダー | 8412.21 | |
集積回路 | 8542.31 | |
電球 | 8539.32 8539.10 | |
レンズ | 7014.00 9001.90 | |
照明用機器 | 8512.20 | |
自動車用のカギ | 8301.20 | |
磁石 | 8505.20 | |
カタログ、冊子 | 4901.10 | |
ミラー | 7009.10 | |
モーター(電気式) | 8501.31 | |
モーター(液体、気体式等) | 8412.39 | |
ネームプレート | 8310.00 | |
ナット | 7318.16 | |
コッター | 7318.24 | |
プリント基板、印刷回路 | 8534.00 | |
電気制御盤 | 8537.10 | |
真空ポンプ | 8414.10 | |
液体ポンプ | 8413.30 | |
ラジオ | 8527.91 | |
リレー(継電器) | 8536.49 | |
抵抗 | 8533.21 | |
リベット(鉄鋼) | 7318.23 | |
リベット(卑金属) | 8308.20 | |
ねじ | 7318.15 | |
シール(プラスチック製) | 3926.90 | |
シール(ゴム製) | 4016.93 | |
シート | 9401.20 | |
電動軸(クランクシャフト) | 8483.10 | |
点火プラグ | 8511.10 | |
スピードメーター | 9029.20 | |
スプリング(鉄鋼) | 7320.20 | |
スプリング(銅) | 7419.99 | |
ねじ | 7318.15 | |
スイッチ | 8536.50 | |
dvdプレーヤー | 8521.90 | |
サーモスタット | 9032.10 | |
タイヤ | 4011.10 | |
ツールキット | 8206.00 | |
アダプター | 8504.40 | |
ターボチャージャー(排気タービン式過給機) | 8414.59 | |
自在継手 | 8483.60 | |
バルブ | 8481.30 | |
ワッシャー | 7318.22 | |
フロントガラス | 7007.11 | |
ワイパー | 8512.40 | |
レンチ | 8204.11 |
出典:European Union Website , U.S. Customs and Border Protection
※本事例はあくまでも参考情報であるため、品名や画像とHSコードが
一致する事を保証するものではありませんのでご注意下さい。
※本事例で紹介するHSコード分類は実際の品目の材質、用途等の要素に
よって変動する場合があるのでご注意ください。
関税削減.comの今後の予定
HS分類を行う場合、通則や各規則に従って判断する事が基本となりますが、
この方法だけでは分類できない品目は多く存在します。
この場合、世界各国の税関による膨大な事前教示回答事例を活用して個別品目
の分類を行う事により迅速で正確なHS分類が可能となり、スムーズな通関手続
きやEPA特恵関税率適用の為の品目別原産地規則(CTCルール)を満たし、効率的な
関税削減手続きの実現ができると考えております。
但し、このデータは世界各国に散らばっており、多数の言語により構成されて
いるため、そのままではなかなか使いづらいのが現状です。そこで以下の手段
を用いる事によってより良い事前教示回答事例データベースが構築できるので
はと考えております。
事例データ検索システムの構築
これら膨大なデータは様々な言語で記録されている為、全てを英語に一括翻訳し、
対象品目との比較を容易にする為にデーターベースに登録し、webアプリから照会
ができるようになれば非常に制度の高いHS分類が可能になると考えております。
また、海外の税関の事前教示回答事例には対象品目の実物画像も公開されている物が
多い為、画像の一覧から照会貨物に関連する事例を検索できるよう検討しております。
削除された事例データの復元
上記HS分類事前教示回答事例は日本税関と同じように回答日から一定期間が経過
すると事例は削除されてしまいますが、一度ネットで公開された情報は何かしら
アーカイブ上に保存されています。これを独自の手法で再取得する事により削除
された膨大な回答事例も再現する事が可能となり、概算で80万から100万件の
HS分類事前教示回答事例を世界中から入手する事が可能になります。
削除された古いデータはHS改正により使えない物もありますが、ほとんどの
事例は準用可能な物が多いため、このようなデータも積極的に収集対象としています。
HPからの情報提供
上記システムの構築にはしばらく時間がかかりますが、開発の間も関税削減.comに
て世界の様々なHS分類事例を紹介させて頂き、貿易企業様やメーカー様にとって有益
な情報を提供できればと考えております。
リクエストの受付
関税削減.comでは貿易企業、メーカー、通関業者、貿易コンサルタント、各種士業
など関税に関わる方々にとって有益な情報を発信できるように心がけて
おり、可能な限り様々なリクエストにも応じております。
何か特定の問題を抱えていて困っている場合、特定の情報発信を望まれる場合は
お気軽に問い合わせフォームからご連絡頂ければ幸いです。
また、国際貿易実務を担う方々と情報交換も行えれば大変うれしく思います。
例えば以下のような体験談を提供して頂けると非常に助かります。
■EPA適用の成功例、失敗例。
■海外税関での事前教示申請事例
■HSコードの意見相違事例
■EPAの検認、事後調査体験談
など
このような関税にまつわる実務体験を提供して頂ける方からのご連絡をお待ち
しております。
ご連絡は匿名でも結構です。また、頂いた体験談は無断で第三者に公開する事
はありませんので是非お気軽に問い合わせフォームからご連絡をお願いします。
河副 太智