NAFTA
USMCA(旧NAFTA)のRVC計算方法(Regional Value Content)
USMCA(旧NAFTA)の原産地基準のうち、価格をベースにして原産性を判断する方法に
RVC(Regional Value Content)での原産地判定という方法があります。
「製品価格のうちの○○%以上がUSMCA原産であれば製品全体を
USMCA産品とみなす」というものです。
例えばメキシコで製造された物をアメリカに輸出し
USMCAの特恵関税を適用させたいが、メキシコでの製造の際に
日本産の原料やパーツを使用した場合、どの程度の日本産の使用であれば
メキシコ産として認められるのかを価格を基準にして判断する方法が
このRVCという事になります。
USMCAにはこのRVCの計算方法が2つあり、
Transaction Value MethodとNet Cost Methodと呼びます。
この2のどちらでも計算できる場合は有利な計算方法を選択し、
原産地規則を満たす事が可能です。
Transaction Value Method
Transaction Value Methodは以下の計算式によって算出されます。
※TVはFOBベースでの製品価格
※VNMはUSMCA以外で調達した非原産材料
この方法によって算出されたRVCの値をもって原産性の有無を判定します。
後程計算例を紹介します。
Net Cost Method
Net Cost Methodは以下の計算式によって算出されます。
※VNMはUSMCA以外で調達した非原産材料
※NCはネットコスト(ネットコストとは産品価格から経費を引いたもの
例えば広告費、マーケティング費用、アフターサービス料、ロイヤリティ
船賃、梱包、金利等)
この方法によって算出されたRVCの値をもって原産性の有無を判定します。
こちらも後程計算例を紹介します。
原産地規則例
電気式ヘアーアイロン(HS:8516.32)の原産地規則の例を紹介します。
provided there is a regional value content of not less than:
(a) 60 percent where the transaction value method is used, or
(b) 50 percent where the net cost method is used.
(※一部省略)
冒頭のprovided there is a regional value content of not less thanは
RVCが以下の値を下回らない事が原則という意味になります。
そして青文字の(a) 60 percent where the transaction value method is used
というのがTransaction Value Methodを使用した計算方法で60%以上という
意味になりますので、先ほど紹介した以下の計算式で60以上になれば
原産地規則を満たすという事になります。
もう一方の赤文字の(b) 50 percent where the net cost method is used
というのがNet Cost Methodを使用した計算方法で50%以上という
意味になりますので、先ほど紹介した以下の計算式で50以上になれば
原産地規則を満たすという事になります。
原産地規則はこの2つの計算方法のどちらか一方を満たす事を条件として
おりますので、一方が満たされないのであればもう一方を検討し、
条件を満たす方を適用して、原産性を満たす事が可能です。
計算例
メキシコで製造された電気式ヘアーアイロン(HS:8516.32)は
日本から調達した日本産のヘアーカーラーパーツ(HS:8516.90)を使用している
完成品の電気式ヘアーアイロンのFOB価格は$4.40で、ネットコストは$3.90
日本から調達した日本産のヘアーカーラーパーツの価格は$1.80
Transaction Value Methodで60%とNet Cost Methodで50%のどちらかを
満たせば良いので、それぞれ計算してみます。
Transaction Value Methodで計算
上記の計算式に
TVにFOB価格の$4.40を代入
VNMに日本から調達した非原産材料価格の$1.80を代入すると
計算式は以下のようになります。
RVCは59.1%という事になり、一つ目のRVCの計算方法である
(a) 60 percent where the transaction value method is used
では原産地規則を満たさないという事になります。
Net Cost Methodで計算
上記の計算式に
NCにネットコストの$3.90を代入
VNMに日本から調達した非原産材料価格の$1.80を代入すると
計算式は以下のようになります。
RVCは50.7%という事になり、二つ目のRVCの計算方法である
(b) 50 percent where the net cost method is used
を満たす事になります。
よって上記価格例の電気式ヘアーアイロンの原産地規則は
Net Cost Methodを用いればUSMCA原産地規則を満たすという事になり
USMCA締約国向けの輸出に関しては特恵関税が適用されるという形になります。
上記で紹介した電気式ヘアーアイロンの原産地規則は一部省略しております。
全文は以下のページで紹介しております。
USMCA(旧NAFTA)の自己証明による原産地証明書
USMCA(旧NAFTA)(北米自由貿易協定、North American Free Trade Agreement)は、
アメリカ合衆国、カナダ、メキシコによる自由貿易協定であり
この3か国間における貿易においては特恵関税率が適用され、
特恵関税率の適用によって関税の撤廃あるいは削減がされます。
特恵関税率が適用されるには各締約国での原産品である事の証明が必要であり、
その為には締約国での輸入通関の際、「原産地証明書」の提出が必要となります。
自己証明制度による原産地証明書
USMCAで使用される原産地証明書は「自己証明制度」が採用されており、
商工会議所等第三者機関が作成するものではなく製造者、輸出者自身が
作成する必要があります。
原産地証明書が不要なケース
貨物の価格によっては原産地証明書を必要としない場合もあります。
価格の基準は各国によって異なります。
■アメリカで輸入の場合USD 2,500未満
■カナダでの輸入の場合CAD 1,600 未満
■メキシコでの輸入の場合USD 1,000未満
但し、その際は特恵関税の適用対象である旨を宣誓した
生産者、輸出者による説明書が添付されている必要があります。
■USMCA原産地証明書提出除外の為の宣誓書例
USMCA原産地証明書記入要領
1欄-Exporter Name and Address
輸出者の名称と住所
※Legal tax identification numberについて
-For US exporters/importers, this number is the employer identification
number assigned by the Internal Revenue Service. If you don’t have such a
number, you may use your social security number.
-For Canadian exporters/importers, use the employer number assigned by
Revenue Canada or, if not available, the importer/exporter number assigned
by Canada Customs.
-For Mexican exporters/importers, use the federal taxpayer’s registry number
2欄-Blanket Period
複数回の通関に包括的に使用する場合は“From”から初めて
1年以内の期間を定める
Complete Field 2 if the certificate covers multiple shipments of identical goods
described in Field 5 that are imported into a NAFTA country for a specified
period of up to one year (blanket period). “From” is the date upon which the
certificate becomes applicable to the good covered by the blanket, and it may
be prior to the date of signing this certificate.
3欄-Producer Name and Address
製造者の名称、住所、legal taxidentification number を記載
もし製造者名を輸入者に知られたくない場合は
“Available to Customs Upon Request.”と記載する事が可能
4欄-Importer Name and Address
輸入者の名称、住所、legal taxidentification number
原産地証明書だけが作成され、輸入者が未確定の場合は“unknown.”とし、
輸入者が複数いる場合は“various.”と記載する事が可能
5欄-Description of Good
貨物の名称
※輸出者の責任においてインボイスや申告するHSコードに一致させる
6欄-HS Tariff Classification Number
貨物の該当するHSコードを記載する
基本はHS6桁の記載になりますがNAFTA General Note 12に該当する場合
8桁を要する場合もあります。
7欄-Preference Criteria
原産地記号を記載する
原産地記号とはどのような工程を経てNAFTA原産とみなすかを表します。
日本が締結しているFTA/EPAには以下のような記号を使用します。
※USMCAはこの一覧には含まれません
USMCAの場合は「Preference Criterion A ~ E」で原産地記号を表します。
Preference Criterion A
■USMCAで製造された完全生産品(WOと同じ)
Preference Criterion A corresponds to goods wholly obtained or produced entirely in Canada, Mexico, or the United States.
For a good to qualify under this criterion, it must contain no non-North American parts or materials anywhere in the production process. It is generally reserved for basic products such as those harvested, mined, or fished in the NAFTA territory, although it would include a manufactured good with no non-NAFTA inputs.
As a general rule, however, Preference Criterion A rarely applies to manufactured goods. If the good contains any non-NAFTA materials, it will not qualify under Preference Criterion A.
Preference Criterion B
■実質的変更基準(原産地規則)を満たしUSMCA原産として見なすもの
(PSと同じ)
Even if your good contains non-NAFTA materials, it can qualify as B if the materials satisfy the Rules of Origin. The Annex 401 Rules of Origin are based on a change in tariff classification, a regional value-content requirement, or both.
The updated Rules of Origin are located in HTSUS General Note 12(t) of the NAFTA. Agreement. Preference Criterion B is used when the good being certified is produced using materials that the producer/exporter is unable to prove qualify as originating goods in their own right. The finished product will be originating if the requirements of the applicable rule of origin are met. The requirements of the NAFTA Rules of Origin differ from good to good.
Preference Criterion C
■原産材料からなる産品、原産材料を辿っていけばどこかで第三国原料が
あるが基本的には完全生産品であるもの(PEと同じ)
This criterion corresponds to goods produced entirely in Canada, Mexico, and/or the United States exclusively from NAFTA materials.
Preference Criterion C is used when the producer/exporter is able to document that the finished good is produced entirely in the NAFTA territory using only materials that would qualify in their own right. The producer/exporter should have documented proof that every raw material and component is a NAFTA good.
Preference Criterion D
分解された状態の貨物でパーツとしてのHS分類をすると原産地規則Annex401を
満たさないが、RVC(付加価値基準)は満たしている
Unassembled goods and goods classified in the same Harmonized System number as their parts, which do not meet the Annex 401 rule of origin (tariff shift), but contain sufficient North American regional value content qualify as originating.
In a very few cases a good that has not undergone the required tariff transformation can still qualify for preferential NAFTA treatment if a regional value content requirement is met.
Preference Criterion E
NAFTA Annex308.1に該当する貨物
This criterion applies to certain automatic data processing goods
and their parts, specified in Annex 308.1.
Preference Criterion F
アメリカからメキシコに輸出される特定農産物
Preference Criterion F concerns specific agricultural goods that are exported from the U.S. into Mexico. For further information, you can contact the Bilateral and Enforcement Division of the Foreign Agricultural Service at the U.S. Department of Agriculture at 202-720-3798.
8欄-Producer
製造者名、輸出者自身が製造者でない場合に記載する
9欄-Net Cost
原産地規則を満たすためにネットコストから算出した価格にて
RVC(付加価値基準)を基準にしている場合は”NC”と記載し、
それ以外の方法で原産地規則を満たしていれば”no”と記載
※ネットコストとは産品価格から経費を引いたもの
例えば広告費、マーケティング費用、アフターサービス料、ロイヤリティ
船賃、梱包、金利等
■ネットコスト計算式
(RVC=付加価値、NC=ネットコスト、VNM=非原産材料費)
詳しい計算例はUSMCAのRVC計算方法を参考にしてください。
10欄-Country of Origin
原産国名を記載する
カナダ向けの輸出であれば“MX” や “US”を記載する
For all other originating goods exported to Canada, indicate appropriately
“MX” or “US” if the goods originate in that NAFTA country, within the meaning
of Annex 302.2 and any subsequent processing in the other NAFTA country
does not increase the transaction value of the goods by more than seven
percent; otherwise indicate “JNT” for joint production.
11欄-Contact Information
11欄は輸出者による日付とサインが必要です。
原産地証明書が製造者によって作成され、輸出者が使用するケースであれば
日付とサインは製造者が行う事もできます。
日付は原産地証明書を作成した日になります。
税関が質問をする際には11欄に記載されている者に対して行われますので
適切な回答をできる方の名前が必要となります。
トランプ大統領TPP参加表明か?
2018年1月25日:トランプ大統領がついにTPP参加表明を示唆
現時点ではTPPはアメリカにとっては最悪の協定である事を主張しつつ
アメリカによって有利な条件を織り込む事でTPP参加はありうるとの事
いつものトランプ大統領とは少し違った雰囲気がありますね
トランプ大統領支持者はどのように考えるのでしょうか?
引き続きNAFTAの交渉は続けるという意思についても
言及しております。
今後どのような展開になっていくのか、
進捗あり次第報告させていただきます。
EPAの検認、事後調査はどのように行われるのか
FTA/EPAの制度を利用して関税削減を行う場合、税関に対して原産性
の立証が必要となります。
この立証に対し税関は事後的に原産性の調査を行う事があります。
これを”検認”、”事後確認”と呼びます。
このような検認は基本的に世界中の税関が定期的に自国の貨物に対して
行われております。
本記事で紹介するのはWCO(世界税関機構)による各国の検認状況に
ついてのアンケートに対する回答です。
2011年に発行されたレポートではありますが、今でも十分参考になる
データが掲載されておりますので参考になる情報を一部紹介します。
原産地証明を調査する機会
「原産性の調査はどのような機会においてなされるか」という質問に
対する回答は以下の通りです。
疑義が発生した場合High risk shipment(50%)とランダム調査(47%)と
いうのが一般的な回答のようです。
ALL(38%)というのは以下を含めていつでもという事かと考えます。
(※複数回答がある為、パーセンテージの合計は100%を超えます。)
重点審査箇所
「どの点を重点的に調査するか」という質問に対する回答は以下の通りです。
スタンプ、サイン、原料等の構成を重点的に審査するようです。
検認を行う動機
「検認を行う動機にどのようなものがありますか」という質問に対する
回答は以下の通りです。
「原産地証明の真正性に疑義を持った時」が84%、
「品目の原産性に疑義を持った時」が83%となっており
「ランダム調査」も46%となっております。
検認は誰に対して行われるのか
「検認は誰に対して行いますか」という質問に対する回答は以下の通りです。
検認を行う場合は相手国の税関に確認する事が多いようです。
直接輸出者、製造者に直接確認するケースもあるようです。
TPP11では輸入国が輸出者に対し直接確認する事が可能となっている事
から、上記比率は変わっていくかもしれません。
検認のタイミング
「検認はいつ行いますか」という質問に対する回答は以下の通りです。
輸入許可、貨物リリース後が40%
輸入許可前、貨物リリース前が20%
上記両方行うというのが39%となっております。
相手国への訪問
「相手国への訪問は行いますか」という質問に対する回答は以下の通りです。
検認のほとんどが書面でのやり取りで行われているようですが疑義が
あれば輸出国施設への訪問は行われているという事がわかります。
税関同士の情報交換
「輸入国税関からの情報提供要請に輸出国税関は答えますか?」という
質問に対する回答は以下の通りです。
90%の税関が他国の情報提供要請に答えると回答しております。
検認の頻度
「検認は毎年どの位の頻度で行われますか」という質問に対する回答は
以下の通りです。
輸入国税関が輸出国に検認要請をする年間件数
■無し (12%);
■1 から 10件 (21%);
■11 から 100件(19%);
■101 から 1000件 (38%);
■1000件越え(3%).
■無回答 (7%)
輸出国が輸入国税関から検認要請を受ける年間件数
■無し (7%);
■1 から 10件 (26%);
■11 から 100件 (16%);
■101 から 1000件 (43%);
■1000件越え (1%).
■無回答 (7%)
どちらも年間101件から1000件以内というのが一般的で、
1000件以上行うという事はまれのようです。
輸出国税関への違反報告
「違反を見つけた場合輸出国税関に報告しますか」という質問に対する
回答は以下の通りです。
84%の輸入国税関が輸出国税関に違反報告を行うと回答しております。
検認の実態については不明な点が多く、EPAを活用して関税削減を
行う企業にとっては不安が多い部分かと思います。
今後も検認についての情報があれば報告させていただきます。
出典:World Trends in Preferential Origin Certification and Verification
体験談を募集
実際に検認を受けた企業様からの体験談を募集します。
企業が特定されるような情報は一切公表しない事をお約束します。
頂ける情報の範囲内で他の企業の検認対策になるようなアドバイスを
頂ければ幸いです。
ご協力いただける場合は問い合わせフォームからのご連絡をお願いします。
保護主義反対、経団連が米下院議員と会談
経団連代表団はアメリカにて有力議員や商務省幹部と会談し、
TPPへの復帰,NAFTAの維持を訴えたようです。
この会談にはトヨタ、日立製作所などアメリカの産業界に
影響力を持つ企業役員も同行したとの事です。
これに対しトランプ大統領は今月5日からの訪日で
日米FTAの交渉を求めるとの予測が出ていますが
日米FTAでは日本側が不利になるとの見方が強いようです。
経団連代表の訪米の際、ペンス副大統領やロス商務長官との会談を
求めましたが、日程の都合を理由に実現できなかったようで
現時点ではアメリカのTPP復帰は難しいようです。