本記事では”車用シートカバー”は
・「車のシートの部分品」のHSコードに分類されるのか
・「車のシートの部分品」以外のHSコードに分類されるのか
を考察し、関税削減の為の戦略的HSコード分類手法を検討します。
事例:
EPA非締約国から「車のシート」の部分品である”車用シートカバー”を調達して
EPA締約国内にて「車のシート」を完成させ、更に当該産品を別のEPA締約国に輸出。
この場合、輸出先において関税削減の対象となるEPA締約国の原産品として
みなされるのか、当該”車用シートカバー”が「車のシート」の部分品のHS
コードに分類されるかどうかが問題になります。
HSコード分類の際に検討する問題点
輸出する産品がHSコード9401.20に分類される「車のシート」の場合、
“車用シートカバー”が当該「車のシート」の部分品と判断されれば、
同じ項である9401に分類される可能性があります。
もし、対比表を作成するEPA担当者が当該”車用シートカバー”は製品で
ある「車のシート」に設置するように設計されたものであるという理由
のみで、深く考えずに「車のシート」の部分品として分類してしまうと
HSコードの項(4桁)が共通となってしまい、
HSコードの分類方法の誤りによって自ら関税削減の恩恵を手放す事態
も考えられます。
誤った分類をしてしまうと関税分類変更基準(CTC)において不利な分類
となってしまい、本来原産地規則を満たすものを満たさないと判断し、
関税削減の目的を達成できなくなる恐れがあります。
部分品のHSコード分類は非常に複雑である為、本事例の場合は当該
“車用シートカバー”が「車のシート」の部分品であるHSコード9401
に分類されるかどうかについて更に深く検討してみる必要があります。
税関によるHSコード判例
以下各国税関によるHSコード分類事例を紹介します。
(※判例とは裁判所の判決ではなく税関による判断事例を指します。)
日本税関判例:室内用品に分類された例
登録番号 110003856
税関 名古屋
処理年月日 2010-08-17
シートカバーセット
税番 6304.93(分類当時)
貨物概要:
自動車のシート及びヘッドレスト等に装着するシートカバーのセット
性 状:ポリエステル製織物を特定のサイズに裁断して、縫製、紐、
ファスナーなどを取付けて製品にしたもの
構 成:前席…背部×2、座部×2、ヘッドレスト×2 後席…背部×2、
座部×1、ヘッドレスト×3、サイド×2 素 材:生地…ポリエステル100%
(ジャカード織物) ファスナー、フック、樹脂板…プラスチック
用 途:自動車用シートカバー
包 装:1セット/プラスチック袋
分類理由:
本品は、自動車の座席の既存の側の上に装着するカバーであり、自動車
の座席に取り外し出来ないように取り付けられた側ではなく、自動車の
イスの一部を構成するイスの側ではないため、関税率表第94.01項
の部分品には該当しない。 本品は、ポリエステル製の織物を縫製したシ
ートカバーであり、自動車内で使用される仕様であることから、その他
の室内用品として、同表第63.04項及び同表解説第63.04項の
規定により、上記のとおり分類する。
見解:
本事例での”車用シートカバー”は自動車シートの一部を構成するもので
はないという理由で自動車シートの部分品ではなく、繊維製品に分類
されるという結論になりました。
シートカバーはそれ自体が自動車シートに恒久的に設置されるかどうか
がHSコード分類のポイントになりそうです。
ドイツ税関判例:車用シート部品に分類された例
登録番号 DEBTI57294 / 18-1
税関 ドイツ
処理年月日 2019-2-11
シートカバーセット
税番 9401.90(分類当時)
ドイツ税関では以下ような車用シートカバーを”車用シートの部分品”と
して分類しました。
見解:
こちらは車のシートに恒久的に設置されるタイプである為、
車のシートの部分品9401.90に分類されました。
オランダ税関判例:室内用品に分類された例
登録番号 NLRTD-2013-001991
税関 オランダ
処理年月日 2013-08-15
シートカバー
税番 630493(分類当時)
オランダ税関では以下ような車用シートカバーを”室内用品”として
分類しました。
見解:
画像ではオフィスチェアに設置されておりますが、本品は自動車用シートカバーです。
恒久的に設置されるタイプではないため”室内用品”に分類されました。
HSコードを戦略的に分類
EPA締約国向けに完成品である「車のシート」を輸出する場合、
輸出先で課される関税削減の為に、EPA非締約から調達する原料等
のHSコードを戦略的に分類する事による関税削減対策も可能です。
例えば…
EPA非締約国から”車用シートカバー(HS:9401.90)”を調達し、
EPA締約国Aにて「車用シート(HS:9401.20)」を完成させ、
EPA締約国Bに輸出する場合は
HSコードの頭4桁が共通となる為、原産地規則を満たす事が難しく、
関税削減ができないケースを想定してみます。
この場合、EPA非締約国から調達する品目を”車用シートカバー(HS:9401.90)”
に分類されるギリギリ手前まで加工度を下げ、{繊維製品等}に分類されるよう
意識して製造工程を操作、変更した場合はEPA締約国にて品目別原産地規則
を満たす品目として関税削減の対象とみなされる可能性が高くなります。
(但し、この場合はEPA締約国Aでの加工度が上がる為、関税削減によって
得られる利益と追加加工費用の両者を比較衡量する必要があります。)
このようにしてEPA締約国である輸出先との間で締結しているEPAの規
則に沿って製造工程を検討し、最も関税削減ができるHSコードへ分類
されるにはどのような工程でどのような品目をEPA非締約国から調達
するのかという部分を考慮する事により効率的な関税削減が実現できます。