「シートベルト部分品」のHSコード分類は構造や材質によって、
自動車部品以外のHSコードに分類される事があります。
用途は同じであるにも関わらず、複数のHSコードに分類されてしまうと、
分類する側に混乱を生じさせてしまうという問題やサプライチェーン上
でのEPAを適用した関税削減への悪影響が考えられます。
そこで、本記事では「シートベルト部分品」のHSコード分類事例を
種類別に紹介し、様々な事例を通じて「シートベルト部分品」分類先の
手がかりになる情報をお伝えします。
日本税関によるHSコード判例
「シートベルト部分品」に対する税関の事前教示による判例は以下の通りです。
(※本記事中の「判例」とは裁判所の判決ではなく税関による「判断事例」を指します。)
日本税関判例:巻取り装置のストッパー
登録番号 110003427
税関 名古屋
処理年月日 2010-10-14
一般的品名 自動車用シートベルト機構の部分品
税番 8708.29-000(分類当時のHSバージョン)
貨物概要:
鉄鋼製で内側全体にねじ切りがされたはね付のナット状のもので、自動車
用シートベルトの巻取り装置(スプール)の回転を制御するためのもの
製 法:鉄鋼をプレス加工して、中心をねじ切りして製造
材 質:鉄鋼(キルド鋼) 性 状:ナット状(左右にはね付)
サイズ:リング直径24mm(はねを含む直径32mm)、高さ15mm、
厚み3mm
用 途:自動車用シートベルトのスプール内(巻取り)軸のねじ部に取付ける
ストッパーとして使用。ストッパーのはねがスプール内の溝に勘合し、スプ
ールと一体となって回転する。ねじ部を移動したストッパーが壁面にあたる
ことでスプールの回転が停止し、シートベルトの引き出しを止める。
分類理由:
本品は、自動車用シートベルトのスプール内のねじ部に取付けられるストッ
パーであり、スプールと一体となって回転するシートベルトの引き出しを
制御する機構の一部と認められる。 本品は、自動車用シートベルトの機構に
専ら又は主として使用する部分品と認められることから、関税率表第17部
注3、同表第87.08項及び同表解説第87.08項の規定により、上記
のとおり分類する。
見解:
ナット状の品目という事で汎用性の有無を確認したい所ですが、
ベルトの動きを静止するための構造がシートベルトの部分品としての
決定要因になったと考えます。
出典:税関事前教示事例を一部加工して作成
諸外国税関によるHSコード判例
ポーランド税関判例: ベルトロッキング機構
登録番号 PLBTIWIT-2019-000343
税関 ポーランド
処理年月日 2019-03-25
一般的品名 a component of the seat belt mechanism
税番 7326.90(分類当時のHSバージョン)
本事例の品目は鋼鉄製の自動車用シートベルトのロッキング機構となり、
事故発生時にシートベルトをロックする部品です。
自動車用シートベルトの機構に専ら又は主として使用する部分品と考え
られそうですが、ポーランド税関はこれをHSコード7326のその他の鉄鋼
製品に分類しています。
ポーランド税関判例: ハウジング
登録番号 PLBTIWIT-2019-001122
税関 ポーランド
処理年月日 2019-08-19
一般的品名 SEAT BELTS HOUSING
税番 8308.90(分類当時のHSバージョン)
本事例の品目はシートベルトのバックルの受け側で、プラスチック、
鉄鋼プレート、スプリング、アルミ製部品からなります。
こちらも自動車用シートベルトの機構に専ら又は主として使用する部分品と
考えられそうですが非金属製のバックル(HSコード8308.90)に分類されて
います。
ルーマニア税関判例: ハウジング
登録番号 RO2017/001699
税関 ルーマニア
処理年月日 2017-5-4
一般的品名 SEAT BELTS HOUSING
税番 8308.90(分類当時のHSバージョン)
こちらも上記と同じくシートベルトのハウジングで、分類先も
非金属製のバックルとなっております。
HSコード分類最終見解
シートベルトは人命に関わる非常に重要な品目である為、内部構造は
複雑になっております。
HS分類においてもそれぞれのパーツが様々に分類される為、部品ごとに
細かく事例を検証する事が望ましいと考えます。
※本記事による各国の品目分類事例は参考のためのものであり、
一切の法的効果や税関の判断を拘束するものではありません。
関税削減の為の戦略的HSコード分類
EPA非締約国から”シートベルトロッキング機構”を調達し、
EPA締約国Aにて「シートベルト全体」を完成させ、
EPA締約国Bに輸出する場合は”シートベルトロッキング機構”と
「シートベルト全体」のHSコードの分類先によって関税削減の対象に
なるかどうかが決まります(※CTCの場合)。
このようにしてEPA締約国である輸出先との間で締結しているEPAの規
則に沿って製造工程を検討し、かつ輸入国の税関がそれぞれの部分品と
最終製品のHSコード分類先をどう判断するか、交渉の余地はあるのか等
を考慮する事により、効率的な関税削減が実現できます。
本記事の事例では日本税関の分類方法では原産地規則上不利になりますが
諸外国の判断は原産地規則上有利と考えられますので、一つの国の税関の
判断に縛られる事なく、世界の税関の判断事例を広く把握する事がEPAを
適用した関税削減に重要な考え方になります。