ボルトとねじは似て非なるものでありますが、両者を明確に分ける定義は
曖昧な部分があります。その為、ボルトとねじのHSコードが異なり、かつ
関税率がそれぞれ異なる国の場合、両者の区別が明確にできていないと
税関との意見相違が発生し、思わぬトラブルに陥る事が考えられます。
例えば米国のHTSタリフ(以下HSコードと呼ぶ)の場合、ボルトとねじの
HSコードが異なり、かつ、関税率も大きく異なります。
その為、トラブルが頻出しているのか、米国税関(CBP)が発行する
Vehicles, Parts and Accessories Under the HTSUSの15pにてボルトとねじの
HSコード関する以下のような記述があります。
ねじによる締め金具にナットが付属しているというだけで
「ボルト」のHSコードが適切だと判断する者が多いが
ねじ締め金具にナットが付属していても「ねじ」のHSコー
ドに分類されるケースもある。
~略~
「ボルト」と「ねじ」の定義には様々な規則を用いることになる。
つまり見た目はボルトでも安易に申告すると状況によってはもっと関税率
の高いねじに分類変更されるかもしれませんよという注意喚起です。
※日本ではボルトとねじの関税率は同じ。
ボルトとねじのHS分類定義
HSコードを分類する際に参照する関税率表解説(HS:7318項)では以下のように
ボルトとねじの違いを定義しています。
ボルトは、ナットと組み合わされるように作られており、通常ねじの
切ってない軸の部分を有する。これに対して金属用のねじは、締め付ける材料にねじ立てされた穴に
ねじ込まれるものであり、そのために、その長さの全体に通常、ねじ
が付けられている。
この解説を参考にするとボルトとねじは以下のようにざっくりと分類ができます。
※本記事ではHTSをHSコードと記載
ボルト:
出典:CBP(米国税関)
登録番号:N090529
日付:2010-01-15
HSコード:7318.15.2065
関税率表解説による定義:ボルトは、ナットと組み合わされるように作られており、
通常ねじの切ってない軸の部分を有する。
ねじ:
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY H86189
日付:2005-01-20
HSコード:7318.15.8080
関税率表解説による定義:金属用のねじは、締め付ける材料にねじ立てされた穴にねじ込まれるものであり、そのために、その長さの全体に通常、ねじが付けられている。
上記実例を見ると関税率表解説のボルト、ねじに対する定義と実物はほぼ一致する
と考えてよいと考えますが、貿易実務では様々なタイプのボルト、ねじを扱う為、
必ずしも関税率表解説の定義によって分類されるという訳ではなく、実物の形状や
用途によって様々な分類方法が採用されます。
Vehicles, Parts and Accessories Under the HTSUSの15pにおいても関税率表解説の定義は
一部の特徴を定義しただけであり、実際は様々な規則を参考にし、状況に応じて両者
を区別するとあります。
出典:Vehicles, Parts and Accessories Under the HTSUS(CBP)
つまり、特殊な形状のボルトとねじのHSコードの分類に関しては意見相違の
リスクが高いという事がうかがえます。
そこで米国税関による事前教示回答事例を参考にどのような形状の締め金具が
ボルト、ねじに分類されるのかを確認してみます。
ボルトとねじのHSコード事前教示回答事例
以下に米国税関(CBP)によるHTSコード事前教示回答事例を紹介します。
ボルト HS:7318.15.20
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY H86191
日付:2001-12-19
HSコード:7318.15.2090
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY F88287
日付:2000-06-14
HSコード:7318.15.2090
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY D86443
日付:1999-01-14
HSコード:7318.15.2090
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY G83591
日付:2000-11-01
HSコード:7318.15.20
機械用ネジHS:7318.15.40
出典:CBP(米国税関)
登録番号:N126430
日付:2010-10-14
HSコード:7318.15.4000
スタッドHS:7318.15.50
出典:CBP(米国税関)
登録番号:N034007
日付:2008-07-31
HSコード:7318.15.5060
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY H86190
日付:2001-12-19
HSコード:7318.15.5060
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY H86194
日付:2001-12-19
HSコード:7318.15.5060
ネジHS:7318.15.60
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY H88741
日付:2002-02-26
HSコード:7318.15.60
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY D88323
日付:1999-02-23
HSコード:7318.15.6060
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY G87524
日付:2001-03-12
HSコード:7318.15.6060
その他ネジ等HS:7318.15.80
出典:CBP(米国税関)
登録番号:NY G83167
日付:2000-10-16
HSコード:7318.15.8045
判断が困難な事例
見た目はボルトであってもその他ねじ等に分類
出典:CBP(米国税関)
登録番号:N034003
日付:2008-07-31
HSコード:7318.15.8065
本事例の品目は照会者がボルトとして事前教示申請を行ったものであり、
見た目からもボルトのHS:7318.15.20に該当するようにも見えますが、その他の
ねじ等のHS:7318.15.80に分類されました。
なぜボルトのHSである7318.15.20から除外されたのか詳しい理由の記載はありま
せんが、当該品目の用途はブッシングをフロントサスペンションアームに結合さ
せるという目的で使用されるという事など様々な要素を考慮し、ボルトの定義に
沿わないと判断され、その他のねじ等のHSである7318.15.80に分類されたのでは
ないかと考えます。
見た目はボルトであっても自動車部品に分類
出典:CBP(米国税関)
登録番号 N057558
処理年月日 2009-5-5
品名:bolt-shaped piece of zinc
HSコード:8708.80
本事例の品目は見た目は汎用性のあるボルトに見える為、HSコード7318.15に
分類されてもよさそうですが米国税関では自動車用部品に分類されています。
理由としてはサスペンション(懸架装置)のトーコントロールシステムに使用さ
れる事が明らかであることから通則1を適用し、項の規定に従ってHSコード8708.80
に分類される事になりました。
先ほどの登録番号:N034003の事例もサスペンションに使用される金具では
ありますが、本品目はサスペンション機能への関わりが大きいと判断されたためか
自動車部品の懸架装置部品に分類されています。
米国税関とチェコ税関での意見相違
自動車用ヘッドライトの位置を調整するボルト(ネジ)のHSコード分類において
米国税関とチェコ税関の間で意見相違のある事例を紹介します。
チェコ税関の事例
登録番号 CZ40-0816-2017
税関 オロモウツ
処理年月日 2017-07-21
品名: THREADED SCREWS
HSコード:3926.90(分類当時のHSバージョン)
本事例の品目は自動車ヘッドライトのLEDの高さを調節するボルト(ネジ)であり
材質はプラスチック製という事でHSコードはプラスチック製品のその他3926.90に
分類される事になりました。
本事例の別の分類候補として電気式の照明機器の部分品としてHSコード8512.90も
検討されましたが、照明そのものの機能ではないとして材質分類での判断となりました。※本事例では16部注1(g)を適用してプラスチック製の汎用品と判断している為、
本品目の材質が鉄鋼製であれば7318.15に分類されるものと考えます。
米国税関の事例
上記のチェコ税関の事例とは異なり、米国税関では自動車用ヘッドライト調整用
ボルト(ネジ)を自動車用部品として分類しています。
登録番号 HQ 086396
税関 ワシントンDC
処理年月日 1990-4-27
品名: Headlamp adjusting screw
HSコード:8708.99(分類当時のHSバージョン)
照会品目の画像はありませんが解説を読むと本品の特徴として、ネジに
ナイロン製のハウジングが取り付けられ、これらは恒久的に結合しているようです。
用途は自動車用ヘッドライトのビームを調整するためのものであり、先ほどのチェコ
税関の事例の品目と材質は異なるものの用途は同種と考えてよいと考えます。
本事例では汎用性と材質を考慮しHSコード7318も候補の一つではありましたが
最終的に自動車用部品のHSコード8708.99に分類されました。
その理由としては7318項解説(A)にある「物品の組立て又は締め付けに使用」する
ものではないという事を根拠として7318項から除外しています。
更に7318項解説(A)(c)では7318項の除外規定が設定されており、そこには
ねじ機構(伝動用その他機械の運動部分として使用されるもの。)と規定されて
いるため自動車用部品として分類する事が適切であると判断する事になり、
汎用性のある品目として分類したチェコ税関の考え方が異なります。
EPAを適用して関税削減を行う場合の注意点
EPAを適用してサプライチェーン上の関税削減を行う場合、ボルトやねじの
HSコードを検討する場面は少なくないと考えますので非原産材料として
これらを使用する場合は特定の機器の部分品と判断されないかどうかを事前
によく検討しないと原産地規則を満たさないと税関より指摘される可能性が
あります。
上記で紹介した事例のように明らかに見た目はボルトであっても特定の機器
の部分品等に分類される事例は多くありますのでボルト、ねじの通関は事前
に注意が必要です。