EPA関税率を適用して関税削減を行った場合、輸入国税関は
輸出国税関等に対し対象貨物の原産性の確認を行う事ができます。
例えば日本からA国に向けて輸出をして、本来A国にて発生する関税を
EPA関税率を適用して削減した場合、A国側が日本側税関等に対して
「本当に日本製なのか」というような原産性に関する質問をする事があります。
この制度を検認と呼び、輸入国側からの原産性に関する質問に回答できない場合は
特恵関税適用貨物に対する特恵待遇を否認する事ができます。
特恵待遇を否認されると通関中の貨物の関税はもちろん、過去の特恵待遇も
遡って否認され、追徴課税やペナルティが発生する事も考えられます。
輸入国からの検認に関する規定は主に以下の3つがあります。
1.原産性に疑義を持った貨物に対する「情報提供の要請」
2.上記1で得た回答に更なる疑義がある場合の「追加情報提供の要請」
3.実際に輸出国の製造所等施設を訪問する「輸出施設訪問」
上記3点の検認要請は一定の期限が定められており、(3の場合は告知期間)
これらの期限を超えてもなお適切な回答ができない等の状況が続く場合、
特恵待遇の否認ができるという事になります。
このような期限は各協定によって異なりますので
以下に協定別の検認要請に対する期限一覧を参考にして下さい。
協定 | 情報提供の要請 | 追加情報提供の要請 | 輸出施設訪問の告知 |
日メキシコ協定 | 6月以内(44条3項) | 3月以内(44条3項) | 30日前(44条10項) |
日マレーシア協定 | 3月以内(43条2項) | 2月以内(43条2項) | 40日前(44条2項) |
日チリ協定 | 3月以内(47条2項) | 2月以内(47条2項) | 40日前(48条2項) |
日タイ協定 | 3月以内(43条2項) | 2月以内(43条2項) | 40日前(44条2項) |
日インドネシア協定 | 6月以内(43条2項) | 4月以内(43条2項) | 40日前(44条2項) |
日ブルネイ協定 | 3月以内(40条2項) | 2月以内(40条2項) | 40日前(41条2項) |
日アセアン協定 | 3月以内(6の2項) | 3月以内(6の2項) | 60日前(7の2項) |
日フィリピン協 定 | 3月以内(43条2項) | 2月以内(43条2項) | 40日前(44条3項) |
日ベトナム協定 | 90日以内(6の2項) | 90日以内(6の2項) | 60日前(7の2項) |
日スイス協定 | 10月以内(25条7項) | 両国合意期間内 | 両国合意期間内 |
日インド協定 | 3月以内(6の2項) | 2月以内(6の2項) | 60日前(7の2項) |
日ペルー協定 | 3月以内(66条4項a) | 2月以内(66条4項b) | 30前(66条5項a) |
日オーストラリア協定 | 45日以内(3.21条3項) | 45日以内(3.21条3項) | 40日前(3.22条2項a) |
日モンゴル協定 | 4月以内(3.18条3項) | 2月以内(3.18条3項) | 40日以内(3.19条2項) |
TPP | 30日以内(3.27条6項c) | – | 30日以内(3.27条6項b) |
日EU協定 | 3月以内(3.24条1項a) | 3月以内(3.24条1項b) | – |
輸出先国から検認が来てしまった場合、輸出側としては相手国側からの要請を
満たす為に非常に困難な状況に陥る事が考えられます。
原産性を証明する資料の収集や製造工程の説明等を行うにあたって
どの担当者がどの情報を把握しているのかすらわからない状況になってしまい、
最終的には上記期間中に相手側の要求に答える事ができずに過去に輸出した数年分の
貨物に対する追徴課税が発生し、取引先との関係が悪化してしまう事もあり得ます。
現時点では日本側に対し、輸出先から検認要請が来ることはさほど多くはないですが
要請の件数は上昇傾向にあるので注意が必要です。
特にEUは検認を厳しく行う傾向があるので、日EU・EPA締結により、今後EUからの
検認要請が増えていくのではないかと考えております。