TPPの発行によりアメリカ以外からの輸入に注目が集まっており、
特にカナダ産牛肉輸入については以下のように多くの利点があるようです。
1.アメリカ産よりカナダ産の方が安く仕入れられる。
2.TPPの発行によりアメリカ産との関税率差が大きく関税削減ができる。
3.カナダも穀物飼育が中心の為、味もアメリカ産とほぼ変わらない。
ワールドビジネスサテライトより。
財務省貿易統計よりカナダ産牛肉の輸入貿易統計を確認したところ
「冷凍バラ牛肉」の輸入数量がTPP発動前の昨年と比べて大きく変動して
おりましたので、当記事では「冷凍バラ牛肉」のみの貿易統計を紹介します。
カナダ産冷凍バラ牛肉2019年1月輸入貿易統計
現時点での輸入元のメインはアメリカ産となっており、
オーストラリア産は米中貿易戦争の影響を受けて価格が上昇しており
1kg当たりの価格が約490円と高額です。
カナダ産牛肉に関しては1kg当たりの価格が約350円となっており、
アメリカ産の1kg当たりの価格が約400円である事と比較すると報道の通り
カナダ産牛肉は割安感があります。
カナダ産冷凍バラ牛肉2018年1月輸入貿易統計
TPP発動前の2018年1月の冷凍バラ牛肉の輸入貿易統計と比較すると
カナダ産の輸入量は7倍以上に増えており、
ニュージーランド産も4倍近くに増えております。
TPP発動後の冷凍牛肉関税率
アメリカ含むTPP非加盟国からの冷凍牛肉の関税率は38.5%となり、
当記事執筆時点現在でのTPP加盟国の冷凍牛肉の関税率は26.9%です。
今後は以下のように関税率が下がっていき、最終的には9%になります。
2019/4/1~26.6%
2020/4/1~25.8%
2021/4/1~25%
2022/4/1~24.1%
2023/4/1~23.3%
2024/4/1~22.5%
2025/4/1~21.6%
2026/4/1~20.8%
2027/4/1~20%
2028/4/1~18.1%
2029/4/1~16.3%
2030/4/1~14.5%
2031/4/1~12.6%
2032/4/1~10.8%
2033/4/1~9%
個別品目の貿易統計から未来を予測
先にも述べましたがカナダ産牛肉はアメリカ産より安く、味も良く、関税率も低い
となると今後牛肉を扱う企業にとっては注目すべき対象になるかと重います。
牛肉の輸入貿易統計につきましては「冷凍バラ肉」以外でも
冷蔵の物、枝肉、骨付き肉、ロイン、「かた、うで、もも」など
様々な部位別に輸入貿易統計を取得する事ができますので
詳細な品目を指定して時系列分析を行えば輸入量、価格の変動を基に
将来的戦略の指針になると考えます。(※貿易統計を活用して関税削減を参照)
他の品目について統計分析グラフが必要であればお気軽にご連絡ください。
関税削減と逋脱(脱税)の隙間
関税率はどのHSコードに分類されるかによって変わりますので
輸入者としてはできる限り関税率の低い品目にあてはめたいと考えます。
製造工程の変更等によって関税率の低いHSコードに分類できるのであれば
原則に従って目標とする分類先を目指す事は企業努力として大事な事です。
こういった関税削減活動をタリフエンジニアリングと呼びますが、
あまり行き過ぎた対処法はしばしば税関側と揉める事があるようです。
“There’s plenty of gray area in tariff classifications,”
“It’s far more of an art than a science.”
グレーゾーンの多いHS分類、それは科学を遥かに超えた芸術であるマイアミ州弁護士Deborah Stern様 chicagotribuneより引用
今回紹介する事例は「貿易と関税 2019年1月号」に掲載されている
米フォード社による貨物自動車の関税削減についてです。
米国での貨物自動車の関税率
日本に自動車を輸入する場合は基本的に関税はかかりませんが
米国側が自動車を輸入する場合は関税がかかります。
これが一般的な乗用車の場合、関税率は2.5%となっておりますが
貨物自動車の場合の関税率は25%と10倍に跳ね上がります。
↓普通乗用車HS8703の関税率(2.5%)
↓貨物乗用車HS8704の関税率(25%)
乗用車と貨物車の定義
上記のように普通乗用車と貨物車での関税率の差が10倍にもなると
両者をどういった定義で分けるのかが問題になり、
米国にて日産パスファインダーのHS分類で裁判になり(35 F.3d 530 (1994))
この裁判で両者を分ける定義が明確になり、
以下のようにHS分類の解説に分類ルールが記載される事となりました。
普通乗用車の解説
(a)それぞれの人員用に安全装置(例えば、安全ベルト又は安全ベルトを装着するためのアン
カーポイントや取り付け具)のついた常設のシートを有し、又は運転席と助手席の後ろに座
席と安全装置を装着するための常設のアンカーポイントを有する(そのような座席は、取り
付けてあるもの、折り畳んであるもの、アンカーポイントから取り外せるもの、又は折り畳
めるものである)こと。
(b)2枚のサイドパネルに沿ってリアウインドウを有すること。
(c)サイドパネル若しくは後部に、窓付きのスライディング式ドア、スウィングアウト式ドア、
跳ね上げ式ドアを有すること。
(d)運転席及び助手席用の区画と乗員と貨物の両者の輸送用である後部区画の間に、常設パネ
ル若しくは仕切りがないこと。
(e)自動車内全体に乗員用に施された内部装備(例えば、フロアカーペット、換気装置、室内
灯、灰皿)を有すること。
貨物車の解説
(a)運転席と助手席の区画の後ろの区画に、安全装置(例えば、安全ベルト又は安全ベルトを
装着するためのアンカーポイントや取り付け具)又は乗員用設備のないベンチタイプの座席
を有すること。そのような座席は、通常、後部フロア(バンタイプ車)や区分けされたスペ
ース(ピックアップ車)全体を貨物輸送のために使用できるよう、折り畳まれているか又は
折り畳むことができる。
(b)運転手と乗員用の区分けされた座席並びにサイドパネル及びあおりのある区分けされたオ
ープンスペースを有する(ピックアップ車)こと。
(c)2枚のサイドパネルに沿った後部の窓がないこと。サイドパネル又は後部に、貨物の積み
降ろしのための窓なしのスライディング式ドア、スウィングアウト式ドア又は跳ね上げ式ド
アを有する(バンタイプ車)こと。
(d)運転席及び助手席用の区画と乗員と貨物の両者の輸送用である後部区画の間に、常設パネ
ル若しくは仕切りがあること。
(e)自動車内全体に乗員用に施された内部装備(例えば、フロアカーペット、換気装置、室内
灯、灰皿)を有しないこと。
フォード社による関税削減対策
フォード社は貨物自動車に課される関税率25%を回避すべく上記の定義に沿って
貨物自動車を一時的に(通関時にだけ)普通乗用車の定義に当てはめる為に
簡易な設備(乗用車の要件に適合するための座席等)を設置し、
輸入許可直後に下請け業者にこれら簡易設備を外し、貨物自動車として
流通させ、年間2億5千万ドルの膨大な関税を削減しましたが、
CBP(米国税関)により貨物自動車の特性を隠すための偽装行為であるとの
指摘を受ける事となりました。
フォード社側の意見としては通関時に普通乗用車を普通乗用車で申告して、
通関後に貨物自動車に改造するのは輸入者側の自由であり合法な
タリフエンジニアリングであると主張したためHS分類の判断の為にCIT
(米国の国際貿易裁判所)にて争う事になりました。
国際貿易裁判所の判決
現時点では残念ながら判決文のリンク(Slip_op17/17-102)が切れているので
確認ができませんが(ご存知の方ご連絡頂ければ幸いです。)
以下の情報元を確認するとCITはFordの行為は合法な関税削減活動であるとの
判断を行ったようです。
Ford Prevails at CIT in ‘Tariff Engineering’ Case
Ford’s creative efforts to avoid $250 million in ‘chicken tax’ tariffs under scrutiny
Ford wins ‘tariff engineering’ case v. US on imported Ford Transit Connect
⚖️ it’s a passenger car, not cargo van https://t.co/JkMkjImMN5 pic.twitter.com/HuWHi3ryZN— Trade News Analysis (@TradeNewsCentre) 2017年8月19日
しかし、CBP(米国税関)はこれを不服として連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に
控訴し、最終的にはCITの判断は覆され、Ford社の輸入した当該車両は
HS8704の貨物乗用車(関税率25%)に該当すると判断しました。判決文
類似の判例
上記の事件に類似するCAFCの判例がありますので紹介します。
United States Court of Appeals for the Federal Circuit
264 F.3d 1126 (Fed. Cir. 2001)
Heartland社はシュガーシロップを輸入する為に米国税関に対し
成分や製造工程を開示し、事前教示を求め、HTS1702.90.40(米国版HS)
に分類されるとの回答を得て低関税率にて輸入をしておりました。
※以下HTSをHSと呼びます。
上記の低関税率のHSに分類される理由は糖蜜を6%以上含有する事が理由でしたが
この糖蜜は輸入後に別工程を経て抜き取られる為、通関時に低い関税率の
HSに分類させるための偽装であるとして起訴されました。
HS170290は以下の定義により大きく関税率が変化します。
Containing soluble non-sugar solids equal to 6 percent or less by
weight of the total soluble solids:(excluding any foreign substances)
ざっくり言うと砂糖以外の物質(異物を除く)等が全体の重量の
6%を超えていなければ純度の高いシロップとして高関税率のHSに分類され
逆に砂糖以外の物質(異物を除く)等が全体の重量の
6%を超える純度の低いシロップは低関税率のHSに分類されます。
↓純度が高く高関税率になるシロップのHS分類
↓純度が低く低関税率になるシロップのHS分類
通関時にだけ糖蜜を含ませて通関許可を経て、後ほど糖蜜を分離するという
行為に対し、CITはフォード社と同じくこれを合法であると判断しましたが
控訴先のCAFCは「糖蜜は異物である」と判断、この行為を偽装と判断し、
当該シロップを高関税率の対象となる1702.90.10あるいは .20に分類しました。
上記の例はシュガーシロップですが、手法としてはフォード社のものと
似ている事から私個人的にはフォード社の関税削減手法は違法であるとする
判決になると考えております。そうでなければ何でもありになってしまいます。
今後の関税削減の流れ
トランプ政権による保守的な関税政策を回避、あるいは拡大するFTA/EPAネット
ワークを利用してより有利な関税率での貿易を実現する為に企業が製造工程等を
検討し、いかに低関税率のHSに目的の品目を分類するかについて戦略的に
考えなければいけない時代が来ております。
かといって裁判沙汰になる可能性のある手法を取り入れると予期せぬトラブルに
遭遇する可能性もありますので、社会通念上相当と認められる範囲内で
関税削減活動を行っていただければと思います。
例えば…
靴に課される高関税率を回避する為にスリッパに分類される仕様を考案
700cc以上のバイクに高関税率が課される為699ccのバイクを製造
鉄やスチールに高関税が課される為モップメーカーが木製部品を使用
など関税削減の為の様々な手法がありますので、適法な範囲内であれば
アイディアを駆使して長期的な利益の確保を目指していただければと思います。
部分品のHS分類は間違えやすい
HSの選定作業の対象は「製品」だけではなく「製品の部分品」にも及びます。
「製品」そのものであればその名称や用途でHS選定が比較的楽なものも
ありますが、ある製品の「部分品」のHSコードの選定となると非常に複雑になる
場合があり、これをFTA活用の際に判断を誤ると関税削減どころか逆に
ペナルティが発生する場合もありますので「部分品」には更なる注意が必要です。
今回は通関実務を行っていた私自身の失敗事例を紹介します。
簡単な部分品のHS選定例
例えば「消火器」のHS選定を行う場合実行関税率表を見ると以下のように
なっておりますのでHSコードは8424.10-000である事がすぐにわかります。
では「消火器の消火剤発射に使用するカートリッジ」という
消火器の部分品のHS選定の場合は上記の表を少し下に行くと以下のように
記載されており、HSコードは8424.90-010である事がわかります。
見慣れない方にとっては非常にややこしく感じるかもしれませんが
部分品のHSコードはこのようにして選定することができます。
複雑な部分品のHS選定例
ここから私自身の通関実務で実際に発生した誤りの例です。
荷主様からのインボイスにはマッサージチェア本体とその部品のヘッドレストが
ありましたので当時の私は何も疑わずに本体のHSコードと部品のヘッドレスト
のHSの2つを探す作業を行いました。
まず一つ目のマッサージチェア本体のHSコードは9019.10-000である事を
特定しました。
次にこの部分品のHSコードを探しますがこれが先ほどの消火器のように
すぐ下に記載がないので不安な気持ちでこの90類を延々と探していきます。
すると以下のような表記がありました
この記述を見てHS9033.00-000は90類の機器全部の部分品なのだと判断し
マッサージチェア本体はHS9019.10-000
マッサージチェア部品はHS9033.00-000で申告をしましたが、その申告後、
税関から電話でHS選定に誤りがある事を告げられてしまいます。
原因としてはHS9033.00-000の説明文のかっこ書きにある
(この類の他の項に該当するものを除く)という記述を吟味しなかった事に
ありました。
HS選定の大原則として「品目別分類の解説を熟読」というのがありますが
当時の私は解説を読まずに判断をしてしまい大変反省させられました。
今改めて90類の解説注2-(b)を確認しますと以下のような記述があります。
2 この類の物品の部分品及び附属品は、1の物品を除くほか、
次に定めるところによりその所属を決定する。
⒜…省略
⒝ ⒜に定めるものを除くほか、特定の機器又は同一の項の
複数の機器(第 90.10 項、第 90.13 項又は第 90.31 項の
機器を含む。)に専ら又は主として使用する部分品及び附属品は
これらの機器の項に属する。
これはつまり90類に該当する品目に対し主として使用する部品は
本体のHSコードと同じHSコードに分類されるという意味になるため
ウィンウィンと動くマッサージチェア本体はHS9019.10-000に分類され、
その部品のヘッドレストのHSも同じく9019.10-000に分類されます。
部分品のHS選定を誤るとどうなる?
上記の例の場合は日本に輸入するケースなのでマッサージチェア本体と
その部品であるHS9019.10-000は関税ゼロなので大きな問題にはなりません。
(輸入申告書を訂正し、通関士に非違ポイントというペナルティが課される)
しかし、マッサージチェアを輸出する場合で、かつFTA等を利用して特恵関税
の恩恵を受ける貿易形態であった場合、この誤りが悲劇になる可能性があります。
例えば日本からインドネシアにマッサージチェア本体を輸出した場合、
インドネシア側でのMFN関税率は5%となります。
そして、日インドネシアEPAを利用すれば5%から0%に関税削減できます。
※RULES OF ORIGIN FACILITATORより転載
ここで問題になるのはマッサージチェア本体を構成する部品を日本以外の
第三国から調達している場合にEPAの特恵関税率の恩恵を得る為の
インドネシア側の品目別分類規則を満たせるかどうかです。
インドネシア側のHS901910の品目別分類規則は以下になります。
A change to subheading 9001.10 through 9033.00 from
any other subheading;
or No required change in tariff classification to subheading
9001.10 through 9033.00, provided that there is a qualifying
value content of not less than 40 percent.
これはつまり第三国から供給された材料から構成される製品の場合、
材料から製品にHSコードが6桁レベルで変更するような加工がされていれば
日本産としてみなされ、特恵関税率が適用されるという事になります。
(付加価値基準を適用する場合は40%以上、今回はCTCを想定)
この原産地規則を検討している際に私が犯したようなミスをして
マッサージチェア本体はHS9019.10
第三国から調達したマッサージチェア部品はHS9033.00という判断をすると
一見HSが6桁レベルで変更されているように見えてしまい、原産地規則を
満たさない物を満たすものとして判断し、通関時あるいは検認等にてこの
誤りを税関から指摘された場合は過少申告加算税等ペナルティの対象と
なってしまいます。
更にその貨物が継続的に輸出されていた場合は過去数年分まで遡って
加算税等が請求されてしまう可能性もあります。
正しく部分品のHS選定をするには?
HSコードの選定を実行関税率表だけ見て決めるのはとても危険です。
自信があったとしても以下の手順は最低限必要です。
類注を確認する
該当すると思われるHSコードの類(HSの頭2桁)ごとに「類注」という
その類全体に対する包括的なルールがありますのでこちらを必ず参照する
必要があります。
ネット上では実行関税率表一覧から年度を指定したページに移動し
以下のリンクをクリックすれば類注を確認する事ができます。
関税率表解説を確認する
関税率表解説を見ると各HSコードの類(頭2桁)に属する品目に対する
より詳細な解説があり、実行関税率表だけでは分類しきれない品目がここに
記載されております。
自信を持ってHS分類をしてもこの解説をよく見たら間違えだったという事も
多々ありますのでこちらもじっくりと熟読する必要があります。
各類に対して「関税率表解説」「例規(分類事例)」へのリンクがあります。
関税率表解説はWCOのExplanatory Note(解説書)が基になっており
国際分類例規はWCOのClassification Opinion(分類意見)が基になっており、
国際的なHS分類の判断基準となるため、輸出先の税関に意見を述べる際にも
有効な情報となります。(国内例規は基本的には日本国内のみの事例)
事前教示回答事例を確認する
HSコードを調べたい貨物の名称等を事前教示回答事例で検索すると
過去の分類事例を検索する事ができます。
HS確定に至るまでの経緯が詳細に記録されておりますので
非常に有効な情報源となります。
税関に聞く
上記の手順を踏んでも不安はそう簡単に拭えないかと思います。
そういった場合は税関に相談するのが一番です。
税関による事前教示制度を利用すればHS分類の事前相談が可能です。
輸出する場合は相手国の税関に質問する事になりますので
現地の輸入者やブローカーを通じて聞くという形が良いでしょう。
海外の税関でも事前教示制度は広く存在しておりますので
面倒でも万が一の事を考えて利用する事を強くお勧めします。
部分品のHSもしっかり調べる
製品のHSや原料のHSを選定するという時には慎重な姿勢になりますが
部分品のHSと言われるとなぜか気持ちが緩んでしまいます(私だけかも?)
しかし、上記のように部分品と言えども予想を遥かに超えた場所に分類される事も
多々ありますし、汎用性があると部分品として認められないケースもあります。
特にFTAの原産地規則を満たすかどうかという場面では部分品はよく扱われる種類
の貨物だと思いますので最後まで気を抜かずに徹底的に調べる姿勢が大事です。
世界の非特恵原産地規則
特恵原産地規則は一般特恵関税率(GSP)やFTA/EPAに基づく特恵関税率
の適用を受けるための原産地規則ですが、これとは別に非特恵原産地規則
(Non preferential rules of origin)という制度が存在します。
非特恵原産地規則は、WTO 協定税率、便益関税、アンチ・ダンピング税の適用、
原産地表示、輸入統計の作成を目的とした原産地規則である為、特恵関税の
確定以外の場面で原産地がどこかを確定しなくてはならない場合に使用されます。
非特恵原産地規則はWTOにおいて1995年より世界各国が共通のルールを制定
するよう働きかけがあるようですが現時点でも合意に至らず、国ごとに異なる
ルールとなっております。
日本の非特恵原産地規則施行規則第1条の7によって制定されております。
(実質的な変更を加える加工又は製造の指定)
第一条の七 令第四条の二第四項第二号(特例申告書の記載事項等)に
規定する財務省令で定める加工又は製造は、物品の該当する
関税定率法別表の項が当該物品のすべての原料又は材料
(当該物品を生産した国又は地域が原産地とされる物品を除く。)
の該当する同表の項と異なることとなる加工又は製造
(税関長が指定する加工又は製造を含む。)とする。
これはつまり製造国が第三国の原料を使用して製品を製造した場合は
HSコード4桁レベルでの変更があれば製造国の原産品としてみなされるという
意味になります。
海外の非特恵原産地規則を調べるのは非常に骨の折れる作業ですが
Jetroによる「非特恵の原産地証明書発給のための原産地規則」にて
主要輸出国の非特恵原産地規則が記載されておりますので紹介します。
■対象国
フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、
中国、韓国、台湾、アメリカ、EU
TPP、日欧EPA等Q&A
サプライヤー証明書英語サンプル
FTA/EPAを活用して関税削減するための原産地証明手続きにおいて
サプライヤー証明書が必要になる場合があります。
例えば輸出の場合であれば相手国の税関に対し日本産であるという事を
証明する為には「原産地証明書」「原産品申告書」を提出しますが
その根拠の裏付けとして「サプライヤー証明書」が必要になる場合があります。
逆に日本側に輸入する場合にもFTA/EPA締約国にて製造された貨物である事を
証明する為に「原産地証明書」「原産品申告書」を税関に提出しますが
同じように根拠の裏付けとして「サプライヤー証明書」が必要になる場合が
あります。
問題はサプライヤー証明書の定義が曖昧であり、いつ必要なのか、
どのような状況で要求されるのか、書式は何を使用するのか、何を記載すれば
よいのかという部分がわかりずらい事にあるかと思います。
本記事ではサプライヤー証明書の解説を行い、原産品申告書の作成をスムーズに
進める為の考え方を紹介します。
サプライヤー証明書とは
輸出者が原産品申告書を作成する場合には輸出先の税関に対し該当貨物が
締約国での原産品である事実を輸出者自身が証明する事になりますが、
必ずしも輸出者=製造者では無いので、証明者である輸出者が自社の貨物の
原産国がどこになるのかを完全に把握できない場合にサプライヤー証明書が
必要となります。
実際の通関手続きでは税関に対して原産地証明書や原産品申告書を提出すれば
特恵関税率を適用して通関許可になる事が多いかと思いますが
検認や事後調査等で揉めることの無いように初めからサプライヤー証明書を
取得しておく事を強くお勧めします。
サプライヤーの協力
ここで問題となるのはサプライヤーが快くサプライヤー証明書の作成に
応じてくれるかどうかというところですが現状は応じてくれずに輸出者が
困る事が多いようです。
その理由として多いのが以下の3つです。
1.サプライヤー証明書、原産地規則の趣旨の理解ができない
2.製造に関する秘密情報保持の為
3.忙しく、そもそも協力する意思が無い
証明書発行以前に上記のような問題がありますとそもそも関税削減どころの
話ではないのでこの点に関しては根気よくサプライヤーとの交渉が必要にな
るかと思います。
特に上記2.の秘密情報保持の為にサプライヤーが協力して頂けない場合は
非常に困難を伴います。
原料に関する情報、仕入れ価格、製造工程など、サプライヤーにとっては
死活問題となる秘密情報です。
いくら長いお付き合いがあろうともサプライヤーが貨物製造に関わる
秘密情報を原産品申告書の作成の為にスムーズに提供してくれるか
というとなかなか難しい部分があると思います。
商工会議所が発行する「原産地証明書」の場合は上記のようなサプライヤー様側
による秘密保持意識によりサプライヤー証明書が取得できない場合は
サプライヤー自身が輸出者に情報を開示しなくても「同意通知」制度を利用して
直接商工会議所に情報を開示すれば「原産地証明書」の発行が可能でした。
しかし、TPPや日EUEPAでは商工会議所が介入する「原産地証明書」ではなく
輸出者等が自身で作成する「自己証明制度」になっており商工会議所が間に
入らない為、「同意通知」という概念が存在せず、輸出者が原産品
申告書を作成する際にサプライヤーから製造方法等情報を開示して
もらう必要が出てきてしまいます。
交渉の方法としてはサプライヤー証明書の作成によりグローバルな販売促進が
加速する事を説明したり、原産地規則の知識や作成した証明書のノウハウを
使ってサプライヤー自身による新規開拓にも貢献できる事をアピールする
事でサプライヤーに興味を持っていただく体制が重要になります。
企業秘密を理由に情報開示をしない場合
日EU・EPAの場合、上記のような問題によって関税削減の機会を
減らさないようにとても有益な対策が規定されております。
税関資料「自己申告制度の利用」81Pを確認すると
以下のような記述がございます。
—————————————————————————-
②日本税関からの原産性の確認への対応
輸出者又は生産者が作成した※原産品申告書を用いて申告した場合には、
輸出者等から必要な情報を入手していただき、それを元に回答してください。
企業秘密等の理由により輸出者等から情報を得られないような事情が
ある場合には、その旨回答してください。
日 EU・EPA においては、輸入者の手配により輸出者又は生産者から
日本税関に対し、直接情報を送付することもできます。
輸出者又は生産者が原産品申告書を作成した場合には、必要に応じて、
日本税関から輸出者等へ情報提供要請を行うことがあります。
※原産品申告書(ANNEX 3-D)
—————————————————————————-
これはつまり原産品申告書を輸出者が作成した場合であっても
輸入者が輸入国税関から原産性の確認を問われた際は
基本的に輸入者が税関に説明する必要がありますが、企業秘密等により
どうしても輸出者から情報の開示が得られない場合は、税関に相談し、
回答を税関が直接輸出者から得る事のできる規定となっております。
この規定があれば貿易取引間での相手方の秘密情報の開示要求をせずとも
税関を通して秘密情報のやりとりができるので、企業秘密を主張して
情報の開示を渋る相手側も納得して協力してくれる可能性が高くなります。
これは日EU・EPAでの規定ですので、日本側が輸出者である場合は
EU側の輸入者に秘密情報を開示せずに、日本側の輸出者が
EU側の税関に直接秘密情報を伝える事も可能とする規定です。
実際の運用には相談が必要になりますので、事前教示制度等を利用して
予めこのような形での関税削減が可能かどうかを確認する必要があります。
事前に確認をせずにこの規定を頼りに輸入してしまうと通関本番で
情報の伝達に不具合が発生した場合に貨物がストップしてしまう可能性も
ありますのでご注意ください。
また、この規定は日EU・EPAのものですが、他のFTA/EPAであっても
税関に事情を説明して間に入ってもらえるよう請願する事によって
柔軟な対応をしてくれるケースもございます。
私自身通関士をしていた際にはやはりこのような問題が多く発生しており
守秘義務を負う通関士にすら情報開示を拒む企業も当然おりましたので
そういった場合には税関に請願して直接第三者から情報を受けてもらえる
ように手配し、目的を達成したことは何度かございます。
情報開示を拒絶されたといってもすぐにあきらめずに何か解決方法を
税関に相談するというのは非常に有効です。
根拠条文:日本語
第3章・21条
原産品であるかどうかについての確認
4
輸入者は、輸入締約国の税関当局に対し、関税上の特恵待遇の要求が
※第3章 16条2項(a)に規定する原産地に関する申告に基づくものである
場合において、要求された情報がその全てについて又は一若しくは二
以上のデータの要素に関連して輸出者から直接提供され得るときは、
その旨を通報する。
※第3章 16条2項(a)の規定
産品が原産品であることについての輸出者によって
作成された原産地に関する申告
根拠条文:英語
ARTICLE 3.21
4. If the claim for preferential tariff treatment was based on a
statement on origin referred to in*subparagraph 2(a) of Article 3.16,
the importer shall inform the customs authority of the importing
Party when the requested information may be provided in full or
in relation to one or more data elements by the exporter directly.
*subparagraph 2(a) of Article 3.16
a statement on origin that the product is originating made out by
the exporter
書式と記載事項
サプライヤー証明書の書式は特に定められておりませんが最低限必要な
記載事項の例示はあります。
※原産性を判断するための基本的考え方と整えるべき保存書類の例示にて
紹介されているサプライヤー証明書の例
サプライヤー証明書に記載が必要な内容は下記のとおりです。
1.証明書の作成年月日
2.製造された物品の供給先名
3.製造者の氏名又は名称、住所、担当者の氏名、所属部署名、連絡先
4.利用する協定名
5.製造された物品が原産品であることを証明する旨の記載(宣誓文)
6.製造された物品の品名(英文)
7.物品を特定できる情報(製造番号、型番等)
8.HSコード
9.判定基準
10.生産場所(住所、工場名等)
英語版サプライヤー証明書フォーム
上記の例は日本語によるサプライヤー証明書ですが、TPPや日EUEPAでは
多くの場合英語のサプライヤー証明書が必要になる事かと思います。
日本から輸出する場合は相手国の税関に対し原産性を証明するのでサプラ
イヤー証明書は英語や他の言語で記述する必要があります。
また、日本に輸入する場合はサプライヤーが日本語を理解している場合以外は
基本的には英語で記載する必要がありますのでいくつかの英語版サプライヤー
証明書書式例を紹介します。
日豪EPA版サプライヤー証明書
日豪EPAの英語版サプライヤー証明書の文言の例示は以下になります。
「自己申告制度」利用の手引き(43p)
上記の例では表題がOrigin Statement/Declarationとなっており、
原産性の宣言という意味になります。
「サプライヤー証明書」は正式にはSupplier’s declarationと言いますが
どちらも目的はほぼ同一ですので輸入先の税関との協議で分かりやすい表題を
選びましょう。
EU版サプライヤー証明書
EUではサプライヤー証明書フォームが指定されております。
この書式を応用すればEU以外の国での証明の際に参考になります。
上記例では4パターンのサプライヤー証明書が紹介されております。
それぞれの詳細は以下のようになります。
①ANNEX 22-15
締約国での原産品である事を宣言すサプライヤー証明書
②ANNEX 22-16
期限を定めた締約国での原産品である事を宣言すサプライヤー証明書
③ANNEX 22-17
非原産材料を加工した締約国原産品である事を宣言するサプライヤー証明書
(①、②とは異なり関税分類変更基準、付加価値基準の記載欄がある)
④ANNEX 22-18
期限を定めた非原産材料を加工した締約国原産品である事を宣言する
サプライヤー証明書
宣誓文
宣誓文に関しては直接の規定が無い場合は輸入先の税関の心証が良くなるような
文面を用意すればスムーズに話が進むでしょう。
基本的な宣誓文としては以下をベースとして記述し、
I, the undersigned, declare that the goods listed on
this document (品名)originate in (生産国名)and satisfy the
rules of origin governing preferential trade
with (国、地域、FTA/EPAの名称等どの特恵関税制度を利用しているか)
更に、疑義があればいつでも対応する事を明文化すると心証は良くなります。
I undertake to make available to the customs authorities
any further supporting documents they require.
絶対確実な正解は無い
サプライヤー証明書はこれを記載すれば確実であるという正解がありません。
HSコードの事前教示のようにサプライヤー証明書の事前教示があれば非常に
嬉しいのですが事前に税関側にサプライヤー証明書を見せて
「これで検認時に問題は出ませんか?」と聞いても明確な回答は期待できません。
何かあれば追加資料や調査に協力するという形で納得してもらうしかないので
この部分については非常に不安になる方が多いかと思います。
この不安を払拭するにはやはり作成者自身による原産地規則の理解が
不可欠であり、その理解をもって原産性を証明する書類の作成が重要です。
どんな厳しい事後調査や検認があっても証明できるという自信をもって
原産品判定書類の作成に挑んで頂ければと思います。