「インジェクター(燃料噴射装置)」のHSコードは「エンジンの部分品」に
分類されるのか「バルブ」に分類されるのかで混乱する事が考えられます。
このような混乱はサプライチェーン上でのEPAを適用した関税削減への
悪影響を発生させる事も考えられるため、本記事では「インジェクター」の
HSコード分類事例を種類別に紹介し、様々な事例を通じてHSコード分類先の
手がかりになる情報をお伝えします。
日本税関によるHSコード判例
「インジェクター」のHS分類判例の一部を紹介します。
(※本記事中の「判例」とは裁判所の判決ではなく税関による「判断事例」を指します。)
日本税関判例:エンジンの部分品
登録番号 116005299
税関 名古屋
処理年月日 2016-11-11
品名:エンジンの部分品
HSコード:8409.91(分類当時のHSバージョン)
貨物概要:
自動車用ガソリンエンジンに使用する燃料噴射装置構造:
本体内部に組み込まれた5種類の主要部品からなる(フィルタ)燃料入口に
位置する燃料のろ過材(スプリング)噴射口全閉時にニードルバルブを下方
に押し付けるコイルばね(ソレノイドコイル)電磁コイル(ニードルバルブ)
ソレノイドコイルの吸引力により噴射口を開閉するバルブ(ノズルプレート)
燃料を霧化する噴射口
性状:円筒形の本体からなるもので、噴射口の反対側先端部から中央部にかけて、
コネクタ付きのカバーで被覆されたもの
サイズ:最大径15mm、長さ85mm機能:ECUからの噴射信号(電気信号)に
よりソレノイドコイルに通電し、電磁力によりニードルバルブが吸引され上昇
することにより噴射口が開き、昇圧された燃料が ノズルプレートの噴孔より
霧化し噴射される
用途:自動車用エンジンの燃料噴射装置として使用
包装:60個/箱
分類理由:
本品は、自動車用のピストン式ガソリンエンジンの吸気ポートに取り付けられ、
ECUからの電気信号を受けて、加圧された燃料を霧化し噴射する装置である。
本品は、その性状及び機能等から、エンジンに専ら又は主として使用する部分
品と認められるため、関税率表第16部注2(b)、同表第84.09項及び同表解説第
84.09項の規定により、上記のとおり分類する。
出典:税関事前教示事例を一部加工して作成
見解:
関税率表第16部注2(b)では「特定の機械又は同一の項の複数の機械に専ら
又は主として使用する部分品は、これらの機械の項に属する。」との規定が
ある為、エンジンに使用されるインジェクターは「インジェクターの部分品」
に分類されました。
諸外国税関によるHSコード判例
米国税関判例: Fuel injectors
登録番号 N272053
税関 アメリカ ニューヨーク
処理年月日 January 28, 2016
一般的品名 Fuel injectors
HSコード 8481.80(分類当時のHSバージョン)
事前教示には品番の記載もある事から以下のHyundai製のエンジンの
「35310」に該当するインジェクターが審査の対象である事がわかります。
見解:
先ほどの日本の事例とは異なり、輸入者が「エンジンの部分品」(HS:8409.91)を
検討していたにも関わらず米国税関は「弁」(HS:8481.80)に分類しました。
通則1を適用して「インジェクター」は8481項の規定に合致するというのが
米国税関の見解となっております。
ドイツ税関判例: High pressure injector
登録番号 DE16784/12-1
税関 ドイツ ハンブルグ
処理年月日 2012-10-30
一般的品名 High pressure injector
HSコード:8409.91(分類当時のHSバージョン)
車のエンジンに使用される高圧インジェクター
見解:
本事例は日本と同じ見解で関税率表第16部注2(b)を適用し、
エンジンの部分品(HS:8409.91)に分類されました。
HSコード分類最終見解
多くの部分品に言えることですが「何かの部分品」に分類されるのか
あるいは「特定の項の規定に合致する品目」に分類されるのかという点
は国によって考え方が異なる為、上記のように複数のHS分類候補がある
場合があります。
国による意見相違はHS分類において永遠の課題であり、完全な解決は
非常に難しい所ではありますが、事前に複数の税関の事前教示例を
確認する事により、国家間での意見相違のリスクの高い品目かどうか
を判断する事は可能かと思います。
本事例では日本、ドイツは同じ意見であり、米国は違う解釈をしている
という事から上記3国以外の国に「インジェクター」を輸出する場合は
「相手国ではどのように分類するのかを深く検討する必要がある」と
事前にフラグを立てる事が重要になります。
関税削減の為の戦略的HSコード分類
EPA非締約国から”インジェクター”を調達し、
EPA締約国Aにて「エンジン」を完成させ、
EPA締約国Bに輸出する場合は”インジェクター”と「エンジン」のHSコードの
分類先によって関税削減の対象になるかどうかが決まります。
(※CTCの場合、原料と製品のHSが離れていればいるほど有利になる為)
このようにしてEPA締約国である輸出先との間で締結しているEPA規則
に沿って製造工程を検討し、かつ輸入国の税関がそれぞれの部分品と
最終製品のHSコード分類先をどう判断するか、交渉の余地はあるのか等
を考慮する事により、効率的な関税削減が実現できます。
一つの国の判断に縛られる事なく、世界の税関の判断事例を広く
把握する事がEPAを適用した関税削減に重要な考え方になります。