関税削減をする為にはEPA締約国間での貿易取引である事を証明する為に
該当品目がどの国の原産なのかを特定し、税関に申告する必要があります。
この原産国を特定する方法にHSコードを使用するものがありますが、
HSコードに馴染みの無い方にとってはこの分野を極力避けて原産国の
特定をしたいと考えるかもしれません。
本記事では原産国を特定する方法にHSコード分類を極力避けた場合の
メリットとデメリットについて解説させていただきます。
目次
価額を用いた原産国特定方法が好まれるが…
該当品目がどの国の原産なのかを特定する方法は品目にもよりますが
大まかに以下の3点に分類されます。
- 原料、製造コスト等の価額を用いて原産国を特定する方法
- HSを用いて原料から製品への変化を基準として原産国を特定する方法
- 原料から製品への製造工程そのものから原産国を特定する方法
上記3点の証明方法のうち、どれか一つを原産国の特定方法として任意に
選択できるという場合であれば1を選択したいと考えるかもしれません。
なぜならば2と3の方法は通関の専門知識が深く関わっており、対策しづらい
感じがしますが、1の方法は製造の工程で発生する費用の証明が主になる為
取り組みやすく感じるのが一般的な考えになるでしょう。
確かに価額を用いた原産国特定方法は証明手順が容易にイメージでき、
小学生レベルの算数で誰でも対応可能ではありますがデメリットが多いのも
事実です。
この両者を比較する為に以下の事例をご覧ください。
※3の製造工程で原産国を特定する方法は特定の品目に限られるので本記事では省略します。
絵画制作の事例で原産国証明方法を比較
B国に住む画家がC国から「絵具セット」をCIF1,000円で輸入しました。
その画家はB国にてC国産の「絵具セット」を使用して絵画を作成。
その後完成した「絵画」をA国にFOB5,000円で販売する事になりました。
A国とB国はEPA締約国である為「絵画」がB国産として認められれば
A国にて関税削減の対象となります。
しかし、C国はA国ともB国ともEPA締約国ではありませんので
C国産の「絵具セット」を使用してB国で制作された絵画がB国産として
認められるには原産地規則を満たす必要があります。
この絵画がB国産として認められるには先ほどの1の価額を用いた方法と
2のHS分類による方法の2種類どちらか一方を満たせばよいという規定で
あった場合にそれぞれの方法のメリットとデメリットは以下になります。
1の価額を用いた方法を適用する場合
非締約のC国から調達した非原産材料の「絵具セット」はCIF1,000円で
B国にて制作された後、A国向けFOB価格は5,000円になりましたので、
B国にて与えられた付加価値は80%になります。
価額を用いた方法で原産基準を満たすか否かの計算方法は協定によって
複数種類があります。本記事では最も一般的な控除方式の式で計算します。
RVCとはRegional Value Contentの略で、産品が生産者の現地地域で
生産されている度合い(現地調達率)を示すパーセンテージです。
「絵画」の価格と「絵具セット」の価格を式に当てはめると
以下のようになります。
付加価値が80%となる為、定められた付加価値基準がこの値より下であれば
基準をクリアし、A国での輸入時に当該「絵画」はB国産とみなされ、
特恵関税率を適用した関税削減の対象となります。
付加価値基準を利用するメリット
■原料のHSコードの選定作業が無く、小学生レベルの算数で原産性を
証明できるので比較的容易に取り組むことができる
付加価値基準を利用するデメリット
■原産地規則を満たせても非原産材料の価格等が高騰した場合、
ある時点から付加価値基準の閾値を超える事ができなくなり、
その結果原産性を満たさなくなる可能性がある。
■最終製品の価格が下落した場合も同じくある時点から
付加価値基準の閾値を超える事ができなくなり、
原産性を満たさなくなる可能性がある。
■為替の変動があった場合に非原産材料の価格と最終製品の価格間の
バランスが変わる事により付加価値基準の閾値を超える事ができなくなり、
原産性を満たさなくなる可能性がある。
■上記3点の変動を常に把握しなければいけない為、
取引毎に全ての費用を確認し続ける手間がある。
■輸出先、取引先等に原産材料の仕入れ値を知られてしまう可能性があり、
輸出先が関連会社で無い場合はハードルが高くなる。
(上記の例では画家が販売先に「絵具セット」の原価を公開する事になる)
■価格に関する証明書類が多くなる為、事後調査や検認の際に税関から
求められる資料が多くなり、非常に手間がかかる。
関税分類変更基準を満たす場合
非締約のC国から調達した非原産材料の「絵具セット」のHSは3213で
B国にて制作された後、A国向け「絵画」のHSは9701になります。
このようにB国での加工作業により関税分類の変更という現象を基準に
して原産国を特定する事が可能になり、A国での輸入時に当該「絵画」はB
国産とみなされ、特恵関税率を適用した関税削減の対象となります。
関税分類変更基準を利用するメリット
■一度最終製品と原料のHSコードを確定し、原産地規則を満たせば
価格や為替変動の影響を受けて原産性を失う事が無い。
■取引毎の確認の手間が省ける。
■事後調査や検認時にも原産性の証明が付加価値基準に比べて
容易になる。
関税分類変更基準を利用するデメリット
■HSコードの選定作業専門知識が必要となる為、新規貨物を扱う際に
手間がかかる。
結論
1の価額を用いた方法と2のHS分類による方法のどちらか一方を選択できる場合
私個人的には2のHS分類による変更基準を満たして原産性を立証する方が
長い目で見れば良いのではないかと考えます。
中には1の価額を用いた方法でないと原産性を立証できない品目もあります。
例えば非原産材料の車の部分品を加工して、付加価値のある車の部品に
する場合等どうしても2のHS分類による変更基準が使用できないケースもありますので
実務上はケースバイケースにならざるを得ないでしょう。
しかし、品目の特性上1と2の両方の方法で対応可能な品目である場合は
2のHS分類による方法の方がメリットが多くありますので関税削減対策を
効率的に行うにはHSコードによる品目分類の知識が非常に重要になります。
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