「加湿器(HS8509.80)」を製造する際に使用するプラスチック製の
“継手”をEPA非締約国から調達する場合に、完成品である「加湿器」
が輸出先において関税削減の対象となる「締約国の原産品」として
みなされるかどうかという点について当該”継手”のHSコードが
「加湿器」の部分品になるかどうかを検討してみます。
↓家庭用「加湿器」本体(HS8509.80)
↓「加湿器」部品の”継手”
出典:EU TAXATION AND CUSTOMS UNION
目次
HSコード分類の際に検討する問題点
HSコード8509.80に分類される「家庭用加湿器」の場合、”継手”が
当該「加湿器」の部分品となれば同じ項である8509に分類される
可能性があります。
当該”継手”は製品である「加湿器」に設置するように設計されたもの
であるため、対比表を作成するEPA担当者がこれを「加湿器の部分品」
として分類してしまうとHSコードの項(4桁)が共通となってしまい、
HSコードの分類方法の誤りによって自ら関税削減の恩恵を手放す事態
も考えられます。
誤った分類をしてしまうと関税分類変更基準(CTC)において不利な分類
となってしまい、本来原産地規則を満たすものを満たさないと判断し、
関税削減の目的を達成できなくなる恐れがあります。
HSコードの分類において部分品の分類は非常に複雑である為、本事例の
場合は当該”継手”が「加湿器」の部分品であるHS8509.90に分類されるか
どうかについて更に深く検討してみる必要があります。
通則と部注の規定からHSコードを特定
当該プラスチック製の”継手”が「加湿器」の部分品になるかどうかは
「加湿器」のHSの属する16部の注規定を確認します。
16部の注1には
この部には、次の物品を含まない。
という除外規定があり、その中の(g)に以下のような定義があります。
第 15 部の注2の卑金属製のはん用性の部分品(第 15 部参照)及びプラスチック製のこれに類する物品(第 39 類参照)
15 部の注2で規定されている「はん用性の部分品」に類するプラス
チック製の物品はここから除かれると読めますので次は15部の注2を
確認します。
すると「はん用性の部分品」とはHSでいうと7307,7312,7315,7317,7318の物
と定義されておりますのでHS7307から順に「はん用性の部分品」とは何か
を調べていく必要があります。
これがなかなかしんどい作業なのですが運良く一番最初の7307で
お目当ての品名を発見できました。
現在参照しているHSは非金属製品ではありますが、15 部の注2で規定
されている「はん用性の部分品」に類するプラスチック製の物品が
16部から除かれるという定義となっておりますので、”プラスチック
製の継手”は16部のHS8509.90には分類されないという結論になります。
関税監査官による事前教示
このような”継手”の品目分類は日本税関の事前教示に照会事例があり、
「加湿器」の部分品には分類されず、HSコード3917.40 の「継手」に
分類されました。
登録番号 116005576
税関 東京
処理年月日 20161129
一般的品名 プラスチック製の継手
税番 3917.40-000
貨物概要
加湿器とチューブを接続するプラスチック製継手
材質:ABS樹脂
構造:ねじを切ったL字の管で、チューブに接続できるように
凹凸が付いている
用途:加湿器とチューブを接続する
分類理由
本品は、プラスチック製の継手であり、関税率表第39.17項
及び同表解説第39.17項の規定により、上記のとおり分類する。
部分品として分類された事例
上記の例とは逆にプラスチック製の部品(“中蓋”)であっても本体の
部分品として分類される事例もございます。
本事例はHS8479.89に分類される大型の工業用加湿器の部分品(プラ
スチック製の中蓋)で製品の形状にあてはまるよう成型した物です。
本品に関しては先ほどの16部の注規定の規定において16部から除外されず、
「加湿器」に対して専ら又は主として使用する部分品として分類され
た事例となっております。
登録番号 118000203
税関 神戸
処理年月日 20180129
一般的品名 加湿器の部分品
税番 8479.90-000
貨物概要
加湿器の部分品(中蓋)
材 質:プラスチック
性 状:特定形状に成形したもの
サイズ:幅147mm×奥行147mm×高さ66mm
用 途:加湿器の中蓋として使用する
機 能:外部からの異物混入を阻止し、噴霧口(上蓋)を保持する
分類理由
本品は、加湿器に使用されるプラスチック製の中蓋として照会の
あった物品である。 本品が使用される加湿器は、圧電セラミックの
振動子に高周波の交流電圧を加え、次亜塩素酸を主成分とした水の
微粒子を発生させ送風ファンにより噴霧する超音波式ミスト噴霧器
であることから、固有の機能を有する機械として、関税率表第84.
79項に分類されるものである。 本品は、その性状等から、当該加
湿器に専ら又は主として使用する部分品と認められることから、同
表第16部注2(b)、同表第84.79項及び同表解説第84.
79項の規定により、上記のとおり分類する。
つまり”継手”は部分品として分類されませんが、”中蓋”は部分品として
分類されたという事になります。(形状等により変動あり)
この為、上記事例ではEPA非締約国から”継手”を調達しても関税削減は
可能ですが、”中蓋”を調達して最終製品を製造すると原産地規則を満た
さず、関税削減ができないという事態に陥る可能性が考えられます。
EPA関税削減の為の関税分類変更基準
関税分類変更基準においては非原産材料のHSコードと製品のHSコードは
できるだけ離れている方が原産地規則を満たしやすくなります。
本事例の場合、締約国での加工によって39類から85類にHSコードの頭2桁
が変更となる為、特恵関税率を適用するための関税分類変更基準を満たし
やすいと考えますが、”継手”を「加湿器」の部分品として
HS8509.90に分類してしまうとHSの項(頭4桁)は共通となってしまうため、
関税分類変更基準において不利になる可能性があります。
その為、最終製品の部分品のHSコードに分類されるのかどうか、他の類
への分類される余地の有無を検討する事は関税削減において非常に重要です。
また、”中蓋”の事例のようにどうしても「部分品からの離脱」ができない
品目もありますので、その場合は原産地規則を満たす方法での調達方法を
検討する必要があります。
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