多国間での包括的EPA(日アセアンEPA、TPP、日EU・EPA等)においては
「累積」の規定を上手く活用する事により、サプライチェーンにおいて
関税削減の恩恵を得やすくなります。
しかし、累積の積み上げ方法は協定によって異なる為注意が必要です。
特に原産品の定義の方法として「国原産」と「地域原産」の違いは非常に
重要な要素となり、この考え方を知らないで累積を適用しようとすると
非原産品であるにも関わらず誤って原産品と考えてしまう場合があります。
そこで以下にて「国原産」と「地域原産」の違いを解説させて頂きます。
日アセアン EPAや日EU・EPAでの累積の規定は「国原産」という方法で付加価値
の積み上げが行われ、TPPでは「地域原産」という方法で付加価値の積み上げが
行われることになります。
これは「TPP原産品」という地域全体を一つの国とみなす概念が存在する事に対し
「日アセアン原産品」や「日EU・EPA原産品」という概念は存在しないという事に
なります。
別の言い方をすると
TPP加盟国Aと別のTPP加盟国Bの2国が連携して製造した産品は
「完全生産品(WO)」となるのに対し、
日アセアン加盟国Cと別の日アセアン加盟国Dの2国が連携して製造した産品は
「原産材料のみから生産される産品(PE)」となります。
(日EU・EPAも同様)
根拠はそれぞれの協定文の完全生産品規定の「締約国において」と
「当該領域において」という文言を比較します。
日アセアンEPA 第二十五条 完全に得られ、又は生産される産品
(K)当該締約国において(a)から(j)までに規定する産品のみから得られ、又は生産される産品(国原産)
日EU・EPA 第三・三条 完全に得られる産品
(l)当該締約国において(a)から(j)までに規定する産品又はこれらの派生物のみから生産される産品(国原産)
TPP 第三・三条 完全に得られ、又は生産される産品
当該領域において専ら(a)から(j)までに規定する産品又はそれらの派生物から生産される産品(地域原産)
両者の違いを表す事例を紹介します。
日アセアン EPAを利用してタイ、ベトナムの順で加工した産品を日本が輸入する
場合において、タイにて部品を製造した際の付加価値基準(VA)40%を満たさないが、
タイとベトナムにおける加工はそれぞれ最終産品の 30%、20%の付加価値(計 50%)
に値する加工を行い、品目別原産地規則(PSR)で規定される付加価値基準(VA)
40%を越える等、複数の締約国間にまたがって産品が製造された場合、国原産と
地域原産によって関税削減ができるかどうかが分かれる事になります。
日アセアン EPAは国原産が採用されている為、タイ、ベトナムそれぞれにおいて、
製造される産品の品目別規則(PSR)を満たす必要があります。タイで部品を製造し、
さらにベトナムで加工して最終産品を輸出するときに、タイで加工された部品がタイの
原産品とならない場合は、タイ、ベトナムで加工した最終産品の付加価値分を合算
(20%+30%)して最終産品の VA を満たすということはできません。
タイで加工された当該非原産の部品は、ベトナムで加工される際に 100%非原産と
扱います。
このような製造工程が地域原産が採用されるTPPで行われる場合は異なる2国間
において製造された産品であり、かつ片一方だけではTPP原産品としてみなされない
場合であっても2国間で積上げられた合計の付加価値によってTPP原産品として
みなされ、関税削減の対象になり得る可能性があります。
サプライチェーンにおいて包括EPAの累積規定を活用する場合は必ず適用するEPAの
原産品の定義が「国原産」なのか「地域原産」なのかを確認する必要があります。
コメントを残す