「ブッシング」のHSコード分類は構造や材質によって、当該「材質その
ものに該当するHSコード」や、「特定の機器の部分品」など複数の分類
先があります。
用途は同じであるにも関わらず、複数のHSコードに分類されてしまうと
分類する側に混乱を生じさせてしまうという問題やサプライチェーン上
でのEPAを適用した関税削減への悪影響が考えられます。
そこで、本記事では「ブッシング」のHSコード分類事例を種類別に紹介し、
様々な事例を通じてHSコード分類先の手がかりになる情報をお伝えします。
目次
日本税関によるHSコード判例
「ブッシング」のHS分類判例の一部を紹介します。
(※本記事中の「判例」とは裁判所の判決ではなく税関による「判断事例」を指します。)
日本税関判例:自動車用ブッシング部品
登録番号 110005335
税関 名古屋
処理年月日 2010-11-19
アルミニウム管(自動車用ブッシング部品)
HSコード:8708.80(分類当時のHSバージョン)
貨物概要:
自動車用ブッシング用に端面を加工したアルミニウム管
製法:特注のアルミニウム引抜管を切断し、切削、面取加工後、両端面に
セレーション加工(7条の溝加工)を施す。
性状:外径-直径32mm+-0.1mm 内径-直径14.2mm+0.1mm
/-0.05mm 全長90.5mm-0.05mm/-0.2mm 端面-円形溝
7本、溝幅0.15mm~0.4mm、深さ0.1mm 締結時の座屈防止の
ため端面の平面面積2/3を確保
材質:アルミニウム合金(JIS A6061-T6)
機能:ブッシングの構成品。両端面加工により、ボルト締結時の負荷により
ボルトとの接地面(山)が許容範囲内(端面表層部)でとどまり座屈変形を
防止する。
用途:自動車後輪部のトレーリングアームのブッシングの内筒として使用する。
分類理由:
本品は、アルミニウム合金製の管を特定の長さに切断したものであるが、その
両端面に、セレーション加工(溝加工)による切込みを入れることにより、自
動車用のブッシング構成品として作り上げた管である。 したがって、本品は、
関税率表第17部注3、同表解説第17部総説(III)「部分品及び附属品」
(a)~(c)を満たすことから、同表第87.08項及び同表解説第87.
08項の規定により、上記のとおり分類する。
出典:税関事前教示事例を一部加工して作成
見解:
上記事例を見ますとアルミの管の両端面に、セレーション加工(溝加工)に
よる切込みがあるという点で自動車用のブッシング構成品としての特徴が認
められ、懸架装置及びその部分品のHSコード8708に分類されました。
日本税関判例:ブッシング用内筒
登録番号 110003481
税関 名古屋
処理年月日 2010-08-16
アルミニウム製品(ブッシング用内筒)
HSコード:7608.20(分類当時のHSバージョン)
貨物概要:
自動車用後輪サスペンションメンバーのブッシング用に加工したアルミニ
ウム製品
製 法:特注のアルミニウム引抜管を切断し、両端を切削、外径及び内径に
面取加工を施す。
材 質:アルミニウム合金(鉄0.4~0.8%、けい素0.7%含有)
(JIS A6061-T6) 性 状:外径;直径40mm ±0.2mm 内径
;直径28.5mm +0.2mm/-0.15mm 全長;82.4mm ±
0.15mm 座屈強度;HV148KN以上 用 途:自動車後輪サスペン
ションメンバーの車体との接続部のブッシング用内筒として使用する。
包 装:50個/内箱×12箱×8段/マスターカートン
その他:輸入後、国内で外筒に内筒を入れ、間を加硫ゴムで加工し、
ブッシングとして完成する。
分類理由:
本品は、アルミニウム合金製の管状の物品で、自動車後輪サスペンション
メンバーの車体との接続部のブッシング用内筒として使用される物品であるが、
加工程度は管を短く切り、面取り加工を施しただけの単純な形状のものである
ことから、関税率表第76類注1(e)に規定する管と認められる。 したがって
、本品は、同表第76.08項及び同表解説第76.08項の規定によりアルミ
ニウム製の管として、また、号の決定にあたっては、同表第76類号注1(b)
の規定によりアルミニウム合金のものとして、上記のとおり分類する。
なお、本品はその性状からアルミニウム合金製の管と認められるものであり、
同表第17部解説総説(III)(c)の条件を満たしていないことから、
自動車用の部分品として同表第87.08項には分類されない。
出典:税関事前教示事例を一部加工して作成
見解:
本事例は先ほどの登録番号 110005335の事例とは異なり、用途はほぼ同じですが
アルミニウム製の管を切って面取り加工を施しただけであり、ここに更なる加工
を経て初めてブッシングとして完成する事から、特定の品目の部分品としてでは
なく、材質そのものを根拠としてアルミニウムの管としてHSコード7608.20分類
されました。
諸外国税関によるHSコード判例
ドイツ税関判例: サブフレーム用ブッシング
登録番号 DE16712/14-1
税関 ドイツ
処理年月日 2015-04-09
一般的品名 subframe bushing
HSコード 8708.80(分類当時のHSバージョン)
高さ75.7 mm、直径69.9 mmの円筒形のブッシング
サスペンションシステムの部分品としての利用が明らかである為、懸架装置及びその
部分品ではるHSコード8708に分類されました。
ドイツ税関判例: アルミチューブ
登録番号 DE7472/14-1
税関 ドイツ
処理年月日 2014-06-10
一般的品名 ALUMINIUM TUBES
HSコード 7608.20(分類当時のHSバージョン)
全長約360 mmの中空シリンダーで、外径は約40 mm。
本事例の実際の用途は不明ですが、ブッシングの製造を目的とした加工前の
アルミ管であった場合は現時点で何かしらの部分品に分類される事は無く、
材質そのものを根拠としてアルミニウムの管としてHSコード7608.20分類され
ることになります。
HSコード分類最終見解
上記事例を見ると品目が何かしらの装置の部分品のHSコードに分類されるか、
あるいはその材質を基にしたHSコードに分類されるかはその加工度合いによ
って変わるようです。
両者を明確に分ける基準は輸入税関の判断にゆだねられている為、上記の
ような税関判例を多く参考にする必要があります。
※本記事による各国の品目分類事例は参考のためのものであり、
一切の法的効果や税関の判断を拘束するものではありません。
関税削減の為の戦略的HSコード分類
EPA非締約国から”アルミ管”を調達し、
EPA締約国Aにて「ブッシング」を完成させ、
EPA締約国Bに輸出する場合は”アルミ管”と「ブッシング」のHSコードの
分類先によって関税削減の対象になるかどうかが決まります。
(※CTCの場合)
このようにしてEPA締約国である輸出先との間で締結しているEPAの規
則に沿って製造工程を検討し、かつ輸入国の税関がそれぞれの部分品と
最終製品のHSコード分類先をどう判断するか、交渉の余地はあるのか等
を考慮する事により、効率的な関税削減が実現できます。
一つの国の判断に縛られる事なく、世界の税関の判断事例を広く
把握する事がEPAを適用した関税削減に重要な考え方になります。
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